過去の地政学リスクをもって「株式市場には限定的」という論調が横行しているわけだが、その論調が通じたのは22日までだった。ここからは金融相場が大きく荒れる可能性が高い。大幅な利上げでも「インフレに効き目なくマーケットに効き目あり」というすったもんだの末、マーケットの“本末転倒カオス”は尾を引くことになりそうだ。
プロフィール:脇田栄一(わきた えいいち)
FRBウォッチャー、レポートストラテジスト。1973年生、福岡県出身。個人投資家を経て東京都内の大手株式ファンドでトレードを指南。本来は企業業績を中心とした分析を行っていたが、08年のリーマンショックを経験し、マクロ経済、先進国中央銀行の金融政策の影響力を痛感。その後、FRBやECBの金融政策を先読み・分析し、マーケット情報をレポートで提供するといった業態を確立。2011年にeリサーチ&コンサルティング(現eリサーチ&インベストメント)を起業。顧客は機関、個人投資家、輸出入企業と幅広い。
想定内だったロシアへの経済制裁
過去の地政学リスクをもって「株式市場には限定的」という論調が横行しているわけだが、その論調が通じるのはここまで。
ここというのは、バイデン政権による経済制裁第一弾(米22日)の内容のことであって、おおよそではあるものの、ここまでは想定内ということになる。
バイデン米大統領は22日、ロシアによるウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立承認などを受け、新たな対ロシア経済制裁を発表した。ロシア大手銀行2行との取引を制限するほか、プーチン・ロシア大統領の側近ら5人を制裁対象に指定。プーチン氏本人への制裁は現時点で見送った。<中略>
金融制裁の対象は、政府系の開発対外経済銀行(VEB)、プロムスビャジバンク(PSB)と、関連42社。2行はロシア最大手ではないが軍需産業との関係が深く、制裁によりドル決済ができなくなる。
ウクライナ侵攻に「市場への影響は限定的」は通じない?
金融制裁についてはその背景が過去とはまったく異なる。マーケットの視点でみた場合、今世紀に入ってこんなにインフレが高かったことは無い。
今回は軍需産業との関連が深いところを狙ってきたが、これがエネルギー関連の決済に大きく関与した銀行に制裁を拡大してくるとなれば抑制の効かないインフレを一層加速させることになる。
ただでさえ大敗見通し(当ブログ)の今年11月中間選挙でバイデン民主は苦境に追いやられることになるだろう、よって金融制裁についてはそこまでは踏み込まない、といった見解が多勢だといえる。
3月(2~3日)にパウエルは議会証言を予定している。繰り返しお伝えしてきたようにこの状況で大きな利上げに踏み込んでくるのは誤りであり、ここ最近では一部連銀総裁からそのような声がでてきた。
「物価高=大幅かつ連続的な利上げ」と杓子定規的な解釈をしている金融当局、専門家を踏襲するかのような意見を議長がいってしまえばハイテク(ナスダック)の上値抑制は長期化し、そしてその後、前言撤回・修正ということになるのではないか。
※ウクライナ情勢について。 フィンランド化という声がきかれるが、周辺国にとって都合の良いこの提案は現状にそぐわないように聞こえる。中立主義を掲げようと憲法に定めようとEU、NATOに加盟することはできない。
※金融制裁について。米国から制裁関税をかけられたり、今回のような金融制裁を受けやすい反米国や産油国は米ドル一極体制のリスクを長期的に懸念し外貨準備政策を進めてきた。今回のように米国内での金利引き上げ(見通し)が長期化すれば新興国は通貨危機に瀕してしまう(拙著『為替の基本とカラクリがよ〜くわかる本[第2版]』9章参照 ※持っている人向け)。米国によるこれ以上の金融制裁は、世界経済に直結している。
本記事は脇田栄一氏のブログ「ニューノーマルの理(ことわり)」からの提供記事です。
※タイトル・リード・見出しはMONEY VOICE編集部による