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岸田政権「資産所得倍増計画」の罠に嵌る日本国民。「貯蓄から投資へ」を実現しても資産は増えない=斎藤満

「貯蓄から投資へ」の限界

まず、岸田政権が言う「貯蓄」から「投資」が簡単ではありません。

日銀の資金循環表によると、今年3月の家計金融資産は2,005兆円。このうち、利息がほとんどつかない現預金が1,088兆円と、全体の54%も占めていて、一方で株式は204兆円、全体の約1割にとどまっています。政府はこの現預金から株にシフトさせたいようで、NISAやiDeCoを活用させようとしています。

しかし、ここに基本的な問題があります。

まず、個人のAさんが100万円の預金を下ろして株を100万円購入したとします。それでも現預金と株の金額はまず変わりません。Aさんが買った株100万円分は、Bさんが売ったもので、Bさんに100万円の現金が入ります。つまり、Aさんの預金100万円はBさんの現預金に移り、Bさんの株100万円分がAさんに移っただけで、全体の量は株も現預金も変わりません。

実際、日銀の資金循環勘定の説明資料でも、株の増減はほとんどが株価の変動によるもので、取引による増減はほぼゼロとなっています。それでも例外があって、売り手が個人でなく企業や政府から買う場合は家計の保有株が増えます。前者はIPOや増資で、後者は政府保有株の売り出しです。しかしこれはレアケースで、通常の株の売買では貯蓄から投資にはシフトできません。

また預金が貯蓄で株が投資というのも不正確です。個人が証券会社経由で株を買っても、直接企業に資金が入るわけではありません。証券会社が仲介して個人から個人にお金が動くだけです。IPOや増資で資金調達するとき以外は、株を買っても企業に資金を提供したことになりません。むしろ銀行が個人から預かった預金を貸し出しに回せば、そのほうが企業への投資になります。

政府やそのアドバイザーの中には、この事情を知らずに「貯蓄から投資へ」と言っている人が少なくありません。

資産を増やせない

以上にみたように、政府が税制などを駆使しても、株式資産を取引を通じて増やすことはできません。できるとすれば、買い需要を刺激して株価を押し上げ、その結果として株式資産が膨らむことは可能です。

もっとも、企業の実力以上に株価が引き上げられれば、いずれそれが反落するリスクがあります。

従って政府にできることは、経済を元気にして企業がIPOや増資をしたくなるような経済にし、成長促進、企業収益増の期待で株価が上昇すれば、金融資産のうちの株式資産が増えますが、これは資産所得倍増というより、通常の成長戦略をまじめにやることにほかなりません。

Next: 残された処方箋は「成長促進」か「利上げ」しかない

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