岸田政権が参院選で大勝し、その勢いで新しい資本主義に根差した「骨太方針2022」を具体化する段階に入ります。政府は年末に「貯蓄」から「投資」へ、「資産所得倍増計画」を打ち出す意向です。しかし、これには思わぬ「罠」が潜んでいます。心して取り掛からないと、茶番に終わりかねません。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2022年7月15日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
池田内閣の所得倍増計画より厄介
宏池会の大先輩、池田隼人内閣がかつて打ち出した「所得倍増計画」にあやかって、岸田政権は「資産所得倍増計画」を提示しています。
同じ宏池会の系譜として、何とか所得か資産を増やしたいとの思いが強いようですが、これは容易ではありません。池田内閣か目指した所得倍増計画は、実は政府が何もしなくとも実現した可能性かあります。政府は当時の高成長に乗るだけでよかったからです。
池田内閣は1960年に「国民所得倍増計画」を閣議決定し、1961年からの10年で国民所得を2倍にする長期経済計画を打ち出しました。当時のブレーンはエコノミスト下村治氏でした。
一見大風呂敷のように見えますが、日本経済は1956年頃より高度成長期に入っていて、1973年まで年平均10%の成長を実現していました。毎年10%の成長を続ければ、7年で所得は2倍になる計算です。実際にこの所得倍増計画は超過達成しました。
この成功体験があったために、安倍政権は長年GDPが名目で500兆円前後で増えない状況を打破しようとして、5年間で名目GDPを100兆円増やし、2020年度600兆円を目指す計画を打ち出しました。
しかしこれはあえなく失敗に終わりました。むしろこの25年で賃金が全く増えていない世界でもまれな国、のレッテルを張られました。
そこで岸田政権は所得の増加目標はあきらめ、「資産所得倍増」として打ち出しました。家計の金融資産が2,000兆円に達したことをとらえ、これを利用して資産、所得を増やす道を探ろうとしています。特に、利息を産まない預貯金に全体の半分以上も預けている日本の状況には、これを打開する余地が大きいとにらみました。
しかし、資産所得の何を倍増させるのか不明確です。
2,000兆円の家計金融資産を4,000兆円にする、というのはいくら毎年金融資産が増えているとはいえ、この倍増は非現実的です。では金融資産が生み出す所得(例えば利子所得、配当所得)を2倍にしたいのでしょうか。もっとも、多くの国民は利子所得や配当所得がどれほどあるのか知りません。
資産所得倍増といっても、国民には何がどうなるのかイメージがわきません。それだけ政策的なインパクトは弱いと言わざるを得ません。
さらに、ここには専門家でも誤解しかねない難しい問題が潜んでいます。