減り続ける経常収支
貯蓄の超過(=貯蓄>投資)が大きく、財政赤字が小さいとき、経常収支の黒字(貿易収支+所得収支(約20兆円/年)が増える。つまり輸出が増える。経常収支の黒字は、国内所得の増加であり、GDPのプラス要素です。経常収支の赤字はマイナス要素です。
財政赤字は30兆円から50兆円あります。財政赤字が減ることは少ない(=ない)。このため、経常収支の黒字が減ってしまいます。
海外投資からの、対外所得収支は約20兆円の黒字です。海外投資(外債買いと工場投資)は増えて、対外資産は増えているので、この対外所得収支は減らない。貯蓄率が下がったとき、大きく減るのは、国内からの輸出です。
円安で増えるのは“日本売り”
為替の変動を嫌う工場の海外移転が進んでいるので、「円安」ではドルベースの海外所得は増えます。しかし国内からの輸出は増えない。輸入物価が上がり、貿易赤字になっていくのです(=所得の海外流出による国内の貧困化)。
もう一点、円安で増えるのは、海外観光客のインバウンド消費(5兆:2019年)ですが、コロナ以降の2年、ほぼゼロになっています。
もう一つは、海外との比較で格安になった、日本の不動産の買いです(中国からは1年1兆円:可能な枠は5兆円/年)。安くなった日本の旅行費と商品、そして不動産が、海外に買われることです。
ゼロ金利と円の増発(500兆円)によって、約40%の円安になったアベノミクスの目標は、3,000万人から5,000人、海外観光客と中国から投資の招聘でした(マカオ風カジノがそのひとつ)。
単純化していえば「中国に、日本の観光と不動産が買い占められる」という結果です。高級な温泉旅館でも、中国人が多かった。
1ドル=115円以上の円安でも、輸出は増えなかった。円安で起こったのは、輸出の増加でなく、「日本売り」です。
無策の政府
政府・日銀は、1985年以来の37年、「円安策」しかとっていません。「経済への観念が古すぎる(昭和モデル)」ことと、「低金利金融と経済政策を提案する経団連の主要メンバーは、円安が利益になる輸出の大手企業(トヨタが典型)であること」です。
円安による輸出企業の利益の増加は、円安によって利益が減る輸入企業の損失と見合う「所得の横移転」に過ぎない。貿易赤字とは、円安による輸入企業の利益の減少が、円安による輸出企業の利益の増加を上回るようになったことです。
80円(2012年)から130円以上の円安になっても、輸出は増えず逆に輸入額が増える2020年代からの日本にとって、「円安は害毒、円高が薬」でした。政府・日銀の、1990年代までの「基本認識(=経済の昭和モデル)」は転換せねばならない。
日本の実質GDPは、1990年以降の32年、ゼロ成長の横ばいと考えている人が多い。この認識は正しいのか?
実は、政府と国民が「日本経済は横ばい」だと考えてきたことにも、「成長の無さ」の原因があります。
仮に、韓国が20%のウォン安によって輸出を増やし、ウォン建てのGDPを10%増やしたとき、日本から見た韓国経済と所得は、「GDP×1.1×0.8=0.88」に下がっています。
韓国の国民は、12%貧困になっていて、日本から見ると商品価格は20%下がり、GDPは減っています。政府・日銀が30年もとってきた円安政策が、まさにこれだったのです。
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