<ジャック・ボー元スイス参謀本部大佐>
このメルマガ このメルマガ の記事で何度も紹介したことがある専門家にジャック・ボー元スイス参謀本部大佐がいる。ボーは2012年からNATOに出向しており、ウクライナ軍の動きをモニターしてきた。ウクライナとロシアの双方の動きを知る軍事専門家として著名だ。9月1日にフランスの雑誌のインタビューに次のように答えている。
質問:西側諸国では、この戦争によってロシア軍が弱体化し、装備が役に立たないことが「証明された」と一般に言われています。これらの主張は本当でしょうか?
ボー:いいえ。6カ月以上にわたる戦争の結果、ロシア軍は効果的かつ効率的であり、その指揮統制の質は西側諸国をはるかに凌ぐと言えるでしょう。しかし、私たちの認識は、ウクライナ側に焦点を当てた報道と、現実の歪曲に影響されています。
まず、現地の現状である。メディアが「ロシア人」と呼んでいるのは、実際にはロシア語を話す連合軍で、ロシアのプロの戦闘員とドンバスの民兵で構成されているこ
とを忘れてはならない。ドンバスでの作戦は主にこれらの民兵によって行われ、彼らは「自分たちの」地域で、自分たちが知っている町や村、友人や家族のいる場所で戦っている。そのため、彼らは自分たちのためだけでなく、民間人の犠牲を避けるためにも、慎重に前進している。このように、西側のプロパガンダの主張とは裏腹に、連合軍は占領した地域で非常に優れた民衆の支持を得ているのである。それから、地図を見るだけでも、ドンバスは建物が多く、人が住んでいる地域であることがわかる。これは、あらゆる状況において、防御側に有利で、攻撃側の進行速度が低下することを意味している。(※筆者訳)
そして、南部のヘルソンの大攻勢については次のように述べている。
南部を制圧するはずだった8月のヘルソン大攻勢については、欧米の支持を維持するための神話に過ぎなかったようだ。今日、私たちは、ウクライナの成功が実際には失敗であったことを目の当たりにしている。ロシアに起因するとされた人的・物的損失は、実際にはウクライナのそれよりも多かった。6月中旬、ゼレンスキーの首席交渉官で側近のデビッド・アラカミアは、1日あたり200~500人の死者が出ていると話し、1日あたり1000人の死傷者(死亡、負傷、捕虜、脱走者)に言及した。これにゼレンスキーによる新たな武器要求が加わると、ウクライナの勝利というのはかなり幻想のように見えることがわかる。
7月、ウクライナの国防大臣アレクセイ・レズニコフは、ウクライナの領土保全を回復するために、100万人規模のヘルソンへの大反攻を声高に叫んだ。しかし、実際には、ウクライナはこのような遠大な攻撃に必要な兵力、装甲、航空援護を集めることができていない。クリミアでの妨害行動は、この「反攻」の代わりとなるものだろう。実際の軍事行動というよりは、コミュニケーションのための演習のように見える。これらの行動は、むしろウクライナへの無条件支援の妥当性を疑問視している西側諸国を安心させることを目的としているようです。(※筆者訳)
このジャック・ボーのインタビューは非常に長いものだが、興味深い点は東部ドンバス地方でのロシア軍の侵攻が遅い理由を説明していることである。
東部では「ルガンスク人民共和国」や「ドネツク人民共和国」の民兵が中心となって戦闘しており、ロシア軍の部隊は彼らを後方から支援している。これらの民兵は自分の住んでいる地域で戦っているので、民間人の死傷者を抑えるのに注意を払っているというのだ。
またボーは、南部ヘルソンではウクライナの攻勢は失敗していると見ている。
サボリージャ原発奪還作戦
このように、ウクライナ戦争の軍事情勢を詳しくモニタリングしているどの機関や専門家も、南部ヘルソンにおけるウクライナ軍の攻勢は失敗しており、ロシア軍の支配地域の奪還には成功していないとしている。また東部ドンバス地方では、ロシア軍はゆっくりとしたペースで侵攻を続けている。現状に大きな変更はないようだ。
また、9月1日にロシア国防省は、最大60人からなるウクライナの破壊工作グループ2つが、「サボリージャ原子力発電所」の北東3キロにある「カホフカ貯水池」の岸辺に上陸し、同施設を奪取しようとしたと発表したが、ロシア軍はこれを撃退したと発表した。
日本ではこのニュースはほとんど報じられなかったか、または報じられたとしても「ロシアの一方的な発表」で根拠がない情報だとされていた。
ところが、ロシア軍の戦闘員によって、撃退されたウクライナの破壊工作部隊の動画がSNSにアップされている。画面には「サボリージャ原発」のある都市、「エネルゴダール」の名前がある。
ショッキングな映像だが、これが現状だ。
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