「悪循環の定説」に大きな違和感
この定説になっている製造業の悪循環からは排除されている重要なファクターがある。
それは企業の利益である。実際のデータを見ると、日本の製造業は国際競争力を失い、それとともに売り上げ(稼ぎ)が減少しているのは確かだが、大企業の経常利益は上昇しているのだ。
2004年には50兆円に届かなかった経常利益が、2019年には80兆円を突破している。その後、コロナ禍による減少はあったものの、2020年でも63兆円近くある。一方賃金はこの間も30年前と比べて変っていない。
増え続ける内部留保金と役員報酬、非正規雇用
増え続けているのは大企業の利益だけではない。大企業の内部留保金も一緒に増大している。その多くは製造業分野の大企業だ。ちなみに内部留保金とは、企業が生み出した利益から税金や配当、役員報酬などの社外流出分を差し引いた金で、社内に蓄積されたものを指す。 社内留保ともいう。
総資産に対する内部留保の比率は、財務の健全性を示す指標としても使われるが、基本的にこの金は生産的投資もされずにただ蓄えられている金だ。緊急時のための準備としては必要だが、これが一定の割合を越えると、投資されない死に金としてみなされる。
この内部留保金は労働者派遣法が改正された2003年以来増え続け、いまでは500兆円に迫る額になっている。ちなみに10年前の2012年には、300兆円を少し越える程度であった。かなり急速な伸びである。
それと同時に増えているのが、大企業の役員報酬である。年間1億円を越える役員報酬を支給している企業が2010年には166社、298人であったが、2018年には240社、538人に増えている。
これらの増大とともに増えているのは、非正規雇用である。
1985年には全勤労者人口の17%程度であった非正規雇用は、やはり2020年には40%に迫る勢いである。この増大の波はこれからも続くと考えた方がよいだろう。