内閣府が公開した「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、日本人の年収の中央値は374万円であった。これは1994年の505万円から131万円の下落だ。昨年の399万円と比較しても、25万円も低くなっている。なぜ先進国で日本だけが停滞しているのか。マスコミや政府の言う「悪循環の定説」を疑う必要が出てきた。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
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先進国で「ひとり負け」の日本
何度か景気浮揚の時期はあったものの、1991年にバブルが崩壊してから、日本は慢性的な停滞状態に陥っている。
経済成長率は1%を下回る水準で推移し、賃金もほとんど横ばいで上昇は見られない。さらに、山一證券や拓銀の破綻があった金融ビッグバン以降、日本経済は一層低迷した。
そして、人件費の削減を模索していた経団連の強い要望で小泉政権が実施した2003年から2006年にかけての労働者派遣法改正で、製造業の全分野における非正規雇用の導入が可能になった。その結果、終身雇用制は実質的に放棄された。人件費の削減で増大した企業の利益は株式などに投資され、2003年から株価は上昇に転じた。
しかし、その後、金融市場は拡大しつつも、国内の景気は依然として低迷し、平均賃金も横ばい状態が続いている。
1990年と比較すると、賃金は先進国で50%から150%ほど上昇しているのに、日本は伸び率は実質的にゼロに等しい。2015年には韓国に抜かれている。
この30年間、賃金の伸びがまったくないので、国内の需要も増大しない。これでさらに日本経済は低迷する。こうした悪循環に入っているというのが、定説になっている。
政府はこの悪循環を脱するために、賃金の引き上げを企業に要請しているのが現状だ。
日本人の年収の中央値は374万円、「悪循環」で浮上できない
最近、内閣府からショッキングなデータが公開された。
「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、日本人の年収の中央値は374万円であった。これは1994年の505万円から131万円の下落だ。昨年の399万円と比較しても、25万円も低くなっている。
これは驚くべき賃金の下落だ。賃金は横ばいどころか、毎年かなりの程度下がっていたのだ。NHKを始め日本の主要メディアでは、日本経済の牽引役である製造業では、次のような悪循環を定説として提示している。
90年代以降、日本は中国や韓国などの新興国の成長に押され日本のおはこであった家電や耐久消費材は国際競争力を失い、価格競争に敗れた。この結果、企業の利益は減少した。そのため、人や設備への投資ができなくなったので、新しい技術や製品を開発するための投資も起こらなかった。これで日本の製造業はさらに国際競争力を失い、同じ悪循環を繰り返している。
これが製造業の悪循環の定説となっている見方だ。
この悪循環にはまり込んでいる限り、企業努力だけでは賃金を引き上げることは不可能だ。労働者は企業にしがみついておるだけではなく、幅広い分野で仕事を得られるように技能を訓練すべきだというのが、この定説の結論になる。
筆者はこの定説を見ると、大きな違和感を感じざるを得ない。