30年ぶりの高い賃上げが実現しそうということで、世間では労働者の実質賃金がいつプラスになるのか、論議を呼んでいます。早いとみる人で6月、多くは秋までにプラスになると予想しています。しかし、実質賃金が簡単にはプラスになりそうもない上に、様々な形でこれから国民の負担が増え、使えるお金は実質的には減り続けることになりそうです。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年4月16日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
人件費コスト増の負担をだれが負うのか
NHKの番組にバタフライ・エフェクトを扱うものがありますが、企業が5%賃上げを行うと、大きな羽音がしてその影響がさまざまに波及します。
企業が大幅賃上げだけして他は何も変わらない真空状態であれば、賃上げ後に実質賃金はプラスになる可能性があります。
しかし、現実には真空経済はあり得ません。
今回、大幅賃上げを決めるきっかけとなった1つの誘因が「賃上げ税制」、つまり7%以上の賃上げをした企業には大企業で最大35%、中小企業で最大45%の法人税控除の特典を提示しました。
企業にしてみれば人件費の大幅増になるうちの一部を減税で補えます。国全体でみるとその分法人税収入が減り、歳入に穴が開きます。その税収減をだれが負担するかです。
そして政府は早速動きを見せました。税収が減る中で政府がすでにばらまいた児童手当などの資金手当てとして、子ども家庭庁は年収別に負担金を健康保険料に上乗せする案を提示しました。年収200万の世帯では毎月の負担金が200円ではじめ、2年後には350円に引き上げるとしています。担当大臣は「賃金が増えるのでこれくらいの負担は可能」との認識です。
ばらまき支出や法人税減税で不足した収入を、目立たないように増税ではなく社会保険料負担で賄おうとしています。
結局その負担をするのは一般国民です。今回は少子化対策として児童手当をばらまいた分ですが、政府はこれまで企業に物価高対策やら何やらで様々な助成金、補助金を与え、その資金負担を後になって国民から社会保険料負担増でとります。この4月から65歳以上の介護保険料負担が増額されています。
余裕のある人から困っている人に所得の再配分をするのは財政機能の1つですが、余裕のある企業の負担を軽くするために、物価高で苦しむ国民から社会保険料引き上げなどで負担させるのは、財政機能とは言えません。単なる財界への「ごますり」で、結局個人の負担増、生活圧迫となります。
少子化担当大臣は賃上げで所得が増えるからといいますが、所得階層が上がると負担金も増えるので楽になりません。
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