物価高の追い打ち
減税分を差し引いても、5%賃上げをすれば企業の人件費は増えます。そのコスト増分を企業が負担すれば労働者の負担は回避できますが、そんな気前の良い企業はまずありません。人件費が増える分を価格転嫁することになります。これには政府自ら旗振りをして「価格転嫁」を推奨しています。
大企業にはもはや値上げに対する躊躇も不安もなく、平然と値上げをしてきます。
中小企業については「公取」の監視のもと、中小企業が価格転嫁できるよう、政府が監視を続けます。中小企業も値上げに出れば、物価全般、とりわけ人件費比率の高いサービス業で大きな値上げとなりそうです。
政府自ら賃上げした分を価格転嫁しろと言っているわけで、賃金が上がればその分物価も上がります。
政府日銀は「賃金物価の好循環」といいますが、せっかくの賃上げ分が物価高でまた消されてしまう状況は「賃金インフレ」であり、「賃金物価の悪循環」にほかなりません。
賃金引き上げと物価上昇の「いたちごっこ」で、それでは労働者の実質賃金は増えません。
法人税減税分、企業の人件費負担は軽減され、その分価格転嫁も抑制すれば、価格転嫁もやや小さくなる可能性はありますが、それでも実質賃金がプラス転換する可能性は限られます。
しかも、企業の負担が軽くなった分をいずれ個人が増税や社会保険料負担の引き上げで負担すれば、実質可処分所得は増えません。
価格転嫁しない道筋を
この「悪循環」を断ち切る必要があります。
企業が価格転嫁しなくても利益を確保できる1つの方策は、労働生産性を上げることです。1人当たり、時間当たりの生産額が高まれば、その範囲内で賃金に還元しても、企業の負担は高まらず、したがって賃上げ分を価格転嫁する必要がなくなります。
政府が掲げる「所得と成長の好循環」を実現する方策として、賃上げ推進は短絡的で、これではバタフライの羽音が企業のコスト増・価格転嫁・物価高をもたらすだけで、成長にはつながりません。
政府が進めるべき方策は、賃上げが可能になるような労働生産性の引き上げ策です。