この点については、おもしろい話が残っています。創業間もないころ、近所に松下と同じように電気屋を始めた人がいました。結局、その人は会社を駄目にしてしまうのですが、数年後、再会したときにその人が幸之助さんに、
「私も一所懸命仕事をしたが、どうも思うようにいかなかった。たまたま少しうまくいきかけると、売った先が金をくれなかったり、頼りにしていた工員が辞めたりして、挫折してしまった。同じように商売を始めた君が、何の支障もなく発展していくのが、不思議だ」
それに対して、幸之助さんはこう答えています。
君ほど熱心にやっていながら、なお仕事が成功しないのが、私には不思議だ。商売というのは大小の差があってもやっただけは成功するものだと思う。
よく世間では商売だから儲けるときもあれば損するときもある、得したり損したりしているうちに成功していくというが、自分はそうは思わない。
絶対に損をしてはいけないのである。
商売というのは真剣勝負と一緒だ。首をはねたり、はねられたりするうちに勝つというようなことはあり得ない。活動すれば、それだけの成功が得られなければならないのだ。
もし、それができなかったら、それは環境でも、時宜でも、運でも何でもない。経営の進め方に当を得ないところがあるからだ。それを『商売は時世時節で得もあれば損もある』と考えるところに根本の間違いがある。
商売というのは、不景気でもよし、好景気であれば、なおよしと考えなければいけない。商売上手な人は、不景気に際してかえって進展の基礎を固めるものだ」
このエピソードは幸之助さんの企業経営というものに対する厳しい姿勢をよく表していると思います。
山下俊彦(松下電気相談役)
『致知』1989年8月号掲載
『致知出版社の「人間力メルマガ」』(2016年7月23日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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