GPIFにとって「想定されるリスク」だった東芝不正
過去GPIFが起こした同種の裁判では、西武鉄道の訴訟では142億円強、調停で終結したオリンパスの訴訟では21億円が回収されているので、法的にはGPIFの主張の正当性は認められているといえる。
しかし、GPIFが2006年の発足以来10年間で3回も有価証券報告書虚偽記載に伴う訴訟を起こしているということは、GPIFにとって有価証券報告書虚偽記載は「想定されるリスク」の一つだったともいえる。
もしGPIFが有価証券報告書虚偽記載について「想定されるリスク」の一つだという認識を持っていたとしたら、単純に「ベンチマーク運用」として委託するのではなく、運用を委託する運用機関が有価証券報告書虚偽記載等疑いのあると判断した銘柄には投資対象から外すよう指示するか、最初から銘柄選択の権限を運用受託機関に与える「アクティブ運用」の比率を増やすなどの対策がとれたはずである。
GPIFが目指すべき姿勢
GPIFは「日本版スチュワードシップ」を掲げ、投資先企業との対話を通して企業の持続的成長を促し、それによって中長期的な収益拡大を目指す方針を示している。
確かに世界最大の投資家であるGPIFとの対話は、企業経営上の緊張感を生む可能性が高い。しかし、GPIFがベンチマークに設定する株価指数に採用されていさえすれば、世界最大の投資家が株主になってくれるという状態では、緊張関係を維持するのは難しい。企業にとっての最大のプレッシャーは「GPIFに買って貰えない」ということだからだ。
「フォワードルッキング」な改革を目指しているGPIF。単に「スチュワードシップ・コード」を掲げ、有価証券報告書虚偽記載等が生じた企業に対しては訴訟を起こすという「バックワードルッキング」な運用責任を目指すのではなく、魅力なき企業・ガバナンスの怪しげな企業は投資対象から外すというような「フォワードルッキングなスチュワードシップ」を目指してもらいたいものだ。
『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年10月13日号)より
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動してきた近藤駿介の、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるマガジン。