「緩和縮小」は始まっている
13年の黒田バズーガ以降、マーケットは国債買い入れという過剰流動性供給を金利以上に好意的に受け入れてきたのです。なので、年間の国債買い入れ量を増額するたびに、株式市場は急騰する反面、今年1月の日銀金融政策決定会合で「国債買い入れの増加ではなく、マイナス金利の導入」を決定した後は、急激な円高・株安になったのです。
現在の過剰流動性相場を支えていると言っても過言ではないこの国債買い入れという名の流動性供給量は、前回の決定会合で決定された「長期金利をゼロにする」というオペレーションの結果どうなったと思います?
前回の会合前は、これまでの日銀の決定通りに「年間80兆円の国債買い入れペース」でしたが、それ以降は「年間75兆円程度の買い入れペースに落ちている」のです。
理由は簡単です。需要と供給が価格を決定している以上、長期金利をゼロに引き上げるためには、長期国債の買い入れ量を減らすしか方法がないからです。
前回の会合の決定内容を受けた直後のメディアは、「長期金利が2%になる局面でも、日銀は長期金利をゼロにするまで、どこまでも国債買い入れを増やしてくれる」とはしゃいだのですが、今は長期金利もマイナスなのに、長期金利が2%の世界をなんで今から考えないといけないのでしょうか?
そもそも、そんな水準まで長期金利が上がっていたら、日銀は前回の決定内容も速やかに放棄して、「日銀は物価目標2%をクリアしたので、今後は出口戦略を開始します」と高らかに宣言するでしょうよ。
実際、前回以降に日銀が行っているのは金利引き締めであり、国債買い入れ額の減額なので、市場が最も恐れているテーパリング(緩和縮小)と何ら変わりがないのです。
黒田総裁の「屁理屈」
黒田日銀総裁は本日の衆院財務金融委員会で、1日の会見では封印した「(追加緩和が)必要に応じて追加措置を取る用意がある」と発言しましたが、この1カ月でやった事は国債買い入れ量を徐々に減額するという「出口戦略」に他なりません。
黒田日銀総裁は今のオペレーションはテーパリング(緩和縮小)とは違うという事を再三言っていますが、現実に長期金利が上昇気味になって、国債買い入れ量が減額されている以上、これをテーパリング(緩和縮小)と呼ばないのは屁理屈に過ぎません。
それでも、長期金利の引き締めとセットで短期金利の緩和(マイナス金利幅の拡大)をすれば、「物価に効果がある短期ゾーンを緩和する総合的な戦略」と評価することはできたでしょう。
しかし、日銀は前回9月の日銀金融政策決定会合で、2カ月かけて追加緩和手段の効果検証を行った結果マイナス金利が最適という結論を出したにも関わらず、「でもマイナス金利は短期的な弊害が多いので今すぐは考えていない」ような事を再三述べているのです。
2カ月もかけて効果の検証をしたのに、なぜ今すぐ出来ないような緩和手段を選んだのでしょうか?私はこの時点で、「日銀の追加緩和に対するやる気の無さ」を感じてしまいました。真剣に緩和について考えているのなら、理屈上望ましい手段以上に、支障がない現実的な手段を選ぶのが常識だからです。
この常識を放棄した時点で、「緩和の強化」と言ったものの、「長期金利は引き上げるし、短期金利は弊害が大きいのでマイナス幅を拡大できない。なので、両方合わせると、テーパリング(緩和縮小)であり金融引き締めである」事になるのは当然の帰結だったのです。
これが前回の日銀金融政策決定会合以降、日銀がやった事です。