「マイノリティ化」に恐怖した白人層
まずは、アメリカ独特の問題として人種問題があります。今回は、白人と非白人という対立構造の中でトランプ支持が増幅した側面があります。
アメリカ建国は白人の手によるものです。ヨーロッパでの宗教戦争に敗れた一団が、海を渡ってアメリカ大陸にやってきたわけです。ピューリタン革命(清教徒革命)と呼ばれるもので、常にアメリカのトップは白人であり、プロテスタントであるべきだという思想があります。WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)がそうですね。
彼らは常に、人種差別発言を繰り返してきました。ですから、その存在自体が批判されていた中で、堂々と人種差別を公言するトランプ氏の登場に「俺たちも堂々と人種問題を叫んでもいいんだ…」と沸き立ちました。
トランプ氏は過激発言で、彼ら白人層の熱狂的支持を得ることになりました。オバマ大統領時代はずっと日の目を見なかった白人層が息を吹き返した、そんな感覚だったのではないでしょうか。
アメリカは世界大恐慌以降、移民政策を国是としてきました。かつてはマイノリティーと呼ばれたヒスパニック系やアフリカ系のアメリカ国民が増え、いまや白人層がマイノリティになる恐怖が出てきています。
彼ら白人層が、自分たちの存在意義に危うさを感じていたところで登場したのが、ドナルド・トランプ氏なのです。
白人層からすれば、今後の人口構成上、今回が最後の白人大統領選出の機会だと思っていたでしょうし、黒人大統領に続く女性大統領の誕生も、絶対に阻止したいという思いがあったのではないでしょうか。
前回選挙なら、アメリカ初の女性大統領というのは、強いシンボルとなっていたでしょうが、今となっては女性のトップは当たり前で、真新しさも感じなくなったのでしょう。
「女性蔑視なんて、俺たちの世界では常識さ」
次に移民廃絶発言です。アメリカ中間所得者層には、常に「いい思いをしていない」というあきらめ感が蔓延していました。いわゆる格差です。
メキシコ国境に壁を造る、移民は排除する、アメリカ人の労働機会を奪っているのは移民である等々…トランプ氏は「アメリカの労働を移民が奪う」というシンプルな対立構造を煽ることで、今までグローバリゼーションに埋もれてきた中間所得者層の不満にスポットを浴びせたのです。
オバマ政権の「CHANGE」で何も変わらなかった中間所得者層や若者層には、期待していた分、裏切られた感覚も強く残っていました。
トランプ氏の女性蔑視や人種差別発言といった問題点よりも、今の生活不安を代弁してくれたことのほうが彼らには重かったようで、それが移民排斥の動きに繋がっている感があります。
中間所得者層にとって、今の閉塞しきったアメリカを変えるには大胆なことをしなければだめだ…この思いにより、オバマ政権を継承するクリントン氏に変革は無理だ、との結論に達したのでしょう。
トランプ氏支持者は、彼の女性蔑視発言は過去のものだと断言し、今とは違うと受け入れています。
中間所得者層はブルーカラーが多く、職場ではパワハラまがいのことは日常茶飯事に起こっています。女性蔑視は常にあり、あのような言葉に目くじらをたてているのは、エスタブリッシュメント(支配者)層だけだと言っていました。
この現実が有識者には理解できず、日本のマスコミも、女性蔑視発言のトランプ氏が支持されることを予想できなかったのではないでしょうか。
彼ら中間所得者層は、トランプ氏が大統領になったあとの世界経済や、世界各国との関係が難しくなることなどどうでもいいのです。知ったこっちゃないという感じで、それで今まで「いい思い」をしてきたエスタブリッシュメント層(支配者層)が困れば、それはそれでよいという考えです。
トランプ大統領誕生でマーケットが暴落すれば、高報酬を得ているウォール街の連中に「ざまーみろ」と言えます。この屈折した感情に、今のアメリカが抱える問題の本質、その一端が現れているのではないか…そんなふうに思うのです。
結果、マーケットは一時的に暴落するも、その後大きく回復しているところが皮肉といえば皮肉です。