楽天が携帯キャリア事業に新規参入すると表明しました。いったいどういう戦略によって、すでに巨大なインフラを構築した3大キャリアに対抗するのでしょうか。(『決算が読めるようになるノート』シバタナオキ)
※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2017年12月22日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
SearchMan共同創業者。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 博士課程修了(工学博士)。元・楽天株式会社執行役員(当時最年少)、元・東京大学工学系研究科助教、元・スタンフォード大学客員研究員。
周回遅れの楽天は「3大キャリア」の牙城をどう切り崩すのか?
プレスリリースで明かされたキーポイント
楽天がついに携帯キャリア事業に新規参入することを正式に表明しました。
12月14日に日経新聞から記事が出たタイミングでは、また日経の飛ばし記事かとも思いましたが、同じ日に楽天からプレスリリースが出ました。
今年度中に新たに割り当てられると言われている、1.7GHz帯と3.4GHz帯の周波数を取得するための申請を行うようです。
プレスリリースの中に.、いくつかキーポイントが数字で示されています。
・サービス開始時期:2019年中のサービス開始を予定
・目標ユーザー獲得数:1,500万人以上
・資金調達残高:2019年のサービス開始時において約2,000億円、2025年において最大6,000億円
最大で6,000億円を調達して設備投資に充てるというアナウンスがされています。しかし、6,000億円では携帯キャリアのインフラを構築するにはまったく足りないという声も聞こえてきます。
実際、NTTドコモは半年で2,500億円以上(一年あたり約5,000億円以上)を設備投資に回しています。新規に携帯インフラをゼロから作るということを考えると、2025年までに6,000億円という規模では既存の3大キャリアに対抗していくのは物理的に不可能なようにも見えます。
※参考:*NTTドコモ 2018年3月期 第2四半期決算説明会(2017/10/26)
また6,000億円という金額は現在の楽天の規模であれば十分調達可能な金額であるとはいえ、決して小さな金額ではありませんので、そこまで大きな金額を調達して設備投資をするのに、まったく勝ち目がない勝負をするとも思えません。
すでに日本全国に巨大なインフラを構築している3大キャリアに対抗していくためには6,000億円という金額は物足りないようにも見えるわけですが、楽天は一体どういった戦略で第4の通信キャリアを目指すのでしょうか。
今日はその辺りの戦略を勝手に推測していきたいと思います。
はじめに断っておきますが、私は携帯キャリアの専門家ではありませんので、この記事に書かれている内容は色々な意味で多くの推測を含んでいる点をご了承いただければ幸いです。また、この記事の内容のうち「そこは違うだろう!」という点があれば、ぜひご指摘いただければ幸いです。
内容に入る前に語彙のおさらいをしておきます。技術的な定義はもちろん大事なわけですが、ここでは簡単にわかりやすくMNOとMVNOの違いを書いておきたいと思います。
・MNO: 自社でインフラを保有する携帯キャリアのことだとお考えください。日本ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社です。
・MVNO: 現在の楽天モバイルのように自社でインフラを保有しない携帯キャリアのことだとお考えください。
楽天モバイルの強み
はじめに、簡単に現在のMVNO事業者としての楽天モバイルの強みをおさらいしておきましょう。
非常に簡単に考えると、楽天モバイルの強みは大きく分けて2つあります。
1つ目は、他のMVNOに比べて顧客獲得コストが抑えられるという点です。楽天というブランドや楽天の他のサービスとのポイント連携などを考えれば、無名のベンチャー企業がMVNOを始めるより低いコストで顧客獲得ができていることは間違いないでしょう。
2つ目の強みは、他のMVNOに比べて解約率が低いと想定されることです。これも楽天モバイルと楽天の他のサービスとのポイント連携やポイントの倍率を優遇することで、楽天モバイルの解約率は通常のMVNOに比べて低くなっているだろうということは容易に想像できます。
MVNO事業の場合、通信回線は基本的にはNTTドコモの回線を利用しているわけで、混雑時に繋がりにくくなるほど回線料をケチらない限りにおいては、サービスレベルでの差別化が物理的に不可能なわけです。
そんな中、楽天はサブスクリプションビジネス(個々の商品やサービスに対価を支払うのではなく、利用期間に対して一定額を課金するモデル=定額制)の最も重要なKPIである、「顧客獲得コスト」と「ライフタイムバリュー」を最適化するためのブランドとインフラを有しているという点において、他のMVNOよりも有利なポジションにいることは間違いありません。