まもなく米国で「賃上げ」が始まり、物価の持続上昇を引き起こす
しかし、そのサイクルはほぼ一巡して、今後、テクノロジーの進化は緩やかになっていくものと考えられているのです。
米国経済は“インフレの準備段階の最終局面”に差し掛かっており、今後は、労働者の賃金上圧力が表面化して、需要が供給を上回るために物価が上昇していくという現象が起こります。
好調な雇用統計を背景に、雇用側は賃金を上げて消費市場を冷やさないようにするため、賃金上昇と物価上昇とが、いたちごっこを始めるようになるのです。
これが、物価水準の持続的上昇を引き起こすのです。
もちろん、トランプ政権の仕掛けた貿易戦争も、コスト・プッシュ・インフレを招くことにつながるため、企業は否が応でも賃金を上げざるを得なくなるのです。
この悪循環に嵌ってしまうと、賃金を毎年上げ続けていかないと、あらゆるバブルが崩壊することになります。
貿易戦争の隠された狙いは、だから「賃金インフレ」を誘発することにあるということになるわけです。
賃金上昇が軌道に乗れば、貿易戦争は軟化する
パウエルFRB議長が、「経済は良好だが、貿易摩擦はリスク」と言ったのは、貿易戦争が賃金インフレの圧力として作用するからです。
彼が、年内に4回程度の小幅利上げを考えていると公言したのも、とどのつまり、賃金インフレ圧力を冷ますためです。
つまり、トランプ政権は、とくっに危険水域を超えてしまったバブルが破裂しないように、米国経済を温泉と冷泉とに交互に入れて固めながら、危険を承知の上で賃金上昇圧力を高めるために貿易戦争を始めたということです。
FRBは、「賃金インフレ退治」を口に出すと反発必至であることを知っているので、あえて、遠回しの表現で焦点をぼかしているのです。
ただし、賃金上昇が軌道に乗れば、トランプは貿易戦争の矛を収めるはずです。
経済指標とは裏腹にまったく加速していない
実際に、米金融当局が発表した好ましい経済指標は、どこにも反映されていません。そして、ウォール街で語られている景気の良い話など、庶民にとっては雲の上の戯言に過ぎず、米国経済が加速している実感などないのです。
前述したように、米国では賃金インフレの兆候が見え始めており、企業活動の先行きに暗雲がたれこめています。
さらには、今年初めから長期金利が上昇し始めており、ここにきて、経済成長の原動力を圧殺してしまう短期金利も上昇しています。深刻なのは、これが今後も続きそうだということです。
今回のインフレは、エネルギー価格の上昇によってもたらされるのではなく、主に賃金上昇によってもたらされることが想定されている以上、トランプ政権のようなポピュリスト政権下では、歯止めが利かなくなる恐れがあります。