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政府統計不正の実害がじわじわ。8年分のデータ破棄で「賃金伸び率」の検証不可に=矢口新

「賃金伸び率」の検証が、今年1月に発覚した政府の統計不正のためにできなくなっている。不正期間の資料が破棄されたことで、経済評論家も投資家も過去からの検証ができない。このデータ異常にどう対処したらよいのだろうか?(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)

※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』2019年5月7日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。配信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

正確なデータはもう無い。統計不正にどう対処すればいいのか?

8年分の統計データを破棄へ

「賃金伸び率」の検証が、今年1月に発覚した政府の統計不正のためにできなくなっている。

政府が毎月勤労統計の集計で不正を行っていた期間の資料を廃棄したことで、8年分の賃金が分からなくなったからだ。

令和への改元を控え、「平成経済」を知るための重要な指標の一つである「賃金伸び率」の検証が、今年1月に発覚した政府の統計不正のためにできなくなっている。政府が毎月勤労統計の集計で不正を行っていた期間の資料を廃棄したことで、8年分の賃金が分からなくなったからだ。
公表された資料には空欄が並ぶという、異様な状況となっている。(渥美龍太)

ルールでは全数調査をしないといけない東京都分の大規模事業所を、厚生労働省が2004年に勝手に抽出調査に切り替える不正を始めたため、以降の調査結果が実態より低く出るずれが生じていた。これにより、延べ2000万人超が雇用保険などを過少に給付されていたことが分かった。

問題発覚後、厚労省は12年以降の結果を再集計して本来の数値を再現したが「04−11年分は調査票などの資料を廃棄・紛失していて再集計ができない」(厚労省の賃金統計担当者)ため、公表資料を空欄とした。この空欄部分については政府統計を統括する統計委員会からも再集計を指示されたが、実現可能かはまだ明らかになっていない。

さらに、前年比1.4%増と大幅な伸びとなった18年については、それまで行ってきた補正を止めるなど、算出方法を大幅に変えた影響でかさ上げされた。ところが、その説明を付けずに伸び率を載せているため、経済情勢が良くなって賃金が伸びたとの誤解を招きかねない状況もはらんでいる。

大和総研の小林俊介氏は「平成の経済はデフレからの脱却が最大の課題であり、物価に大きな影響を与える賃金の動向は極めて重要だ。それなのに、統計不正によって検証ができなくなった。過去の政策判断を誤らせた可能性さえある。国民全体が被害者だ」と批判している。

出典:平成の賃金 検証不能 統計不正 政府廃棄で8年分不明 – 東京新聞

投資家も分析ができない事態に

ほとんどの長期投資はファンダメンタルズ分析によって行われる。

そうした投資運用にとって、情報の正確さが重要なのは言うまでもない。情報を得ることに長けていても、情報の意味するところを投資に結び付ける能力があっても、大元の情報の数値が失われていたり、改ざんされていたりしたならば、間違った方向に進んでしまうからだ。

その意味では、政府による統計数値の不正は、日本に対するマクロ投資のリスクを著しく高めたこととなった。

これでは海外投資家が日本への投資で損失を出した時、ファンダメンタルズ分析での説明責任を果たすことが不可能となる。

投資運用にはコストもかかる。ベースとなる数値に信頼性がないのを知って投資したのなら、運用者自身の癒着すら疑われかねないのだ。

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