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マイナス金利で得する人、損する人=経済学者・青木泰樹

本題に入る前に、マイナス金利について簡単に説明しておきましょう。
一口にマイナス金利と言っても、現実経済での現れ方は三通りあります。

先ず、今回、日銀の実施する「日銀当座預金の付利」をマイナスにするケースです。
本年2月16日以降、日銀は市中銀行の積み増す「新規の超過準備」に対してマイナス0.1%の付利をすることにしました。
これまで積み上げてきた超過準備に関しては、従来通りプラス0.1%の付利を維持するとのことです。

通常、市中(民間)銀行の当座預金に金利は付きません。以前、日銀もそうでした。
しかし、リーマンショック直後の2008年10月より補完当座預金制度が導入され、市中銀行の保有する日銀当座預金の超過準備に対して利息が付けられるようになったのです(それが付利)。

当時、日銀の金融政策の目標は政策金利(短期金利)を一定範囲に誘導することにあり、その下限を画するものとして付利が導入されたとされています(短期金利マイナス0.2%の水準に設定。ちなみに上限は基準貸付利率)。
しかし、程なく短期金利の誘導目標が0.1%に引き下げられ(ゼロ金利政策への復帰)、それ以降、付利も0.1%に据え置かれていた経緯があります。
付利がこの水準に据え置かれた明確な理由は判然としません(それが後の付利引き下げの議論につながっていきます)。

次に、国債がマイナス金利になるケースです。
ただし、この現象は国債の表面利率がマイナスになることを意味しません。
表面利率をマイナスにしたら誰も国債を買わなくなります(現金保有の方が得ですから)。
あくまでも国債の買い手側が、インカムゲイン(利子所得)ではなく、キャピタルゲイン(資本利得)を求めて買値を引き上げた結果として生じる現象です。
その意味で、「転売目的のための投機的現象」と言えます。

例えば、額面100円、表面利率が0.5%の10年物国債を保有していれば、毎年50銭の金利を得られ、償還日まで保有すれば総額で5円の金利が得られます(10年後に償還される元本は100円)。
簡単化のために将来価額の現在価値への割引を考慮しなければ、今、この国債を100円で買って満期まで保有したときの10年間の利回りは5%、105円で買えば利回り0%ですから、105円以上で買って、満期まで保有すればマイナスの利回りになるわけです(例えば、現在の106円を10年後の105円と交換する場合を考えてください)。

ただし、国債の流通利回りがマイナスとなっても、国債発行主体である財務省はそれによって利得が生じるわけではありません。
国債価格が幾らであっても、「額面X表面利率」の利子(確定利子)を払うことに変わりはないからです。
もちろん、こうした傾向が続けば、新規発行に際して表面利率は下がりますから、その分、利払いが少なくなります。

最後に、市中銀行が個人や法人の「預金金利」を、実質上、マイナスにするケースです。
これはたまりませんね。
さすがに預金金利自体をマイナスにすることはできないでしょうから、新たに口座管理料を設定したり、手数料を課すことによって、実質的に預金金利以上のコストを利用者が負担するというケースです。
預金者にとって、今回の日銀のマイナス金利政策の影響として最も心配なところでしょう。

他方、市中銀行が「貸出金利」をマイナスにすることはあり得ません。
もしそうすれば、国民全員がカネを借りるために銀行の融資窓口に殺到するでしょうから、一夜にして銀行の超過準備は払底するでしょう。

Next: 日銀のマイナス金利導入はリフレ派のこれまでの論理と矛盾する

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