20年前につくられた毎月分配型のタコ足投信が、今だ人気という現状。投資は生きザマ、「生きがい」なのか「餌食」なのか、アクティブ投資家の実像とは…。(『「兜町カタリスト」』櫻井英明)
今だに…毎月分配型のタコ足投信が依然として人気の現状
神戸の83歳の投資家は毎日100回以上注文し、毎月4億円を売買
火曜から連載が始まった日経朝刊の「隣のインベスター第2部」。サブタイトルはアクティブ投資家の実像。
「神戸の83歳の投資家は毎日100回以上の注文を出し、毎月4億円の売買に精を出す」。預金に金利がつかない時代に足りないお金は運用で稼ぐという姿勢。売買頻度は多いがこれも現実なのだろう。「投資は生きがい」というコメントも見える。
確かに「投資は生きザマ」だ。毎月分配型のタコ足投信は依然として人気があるというのは「今だに」の感。
愕然としたのは大阪の70歳の投資家さんの投資行動。「金利が8%と魅力、と最近米エヌビディア株とAMD株を参照する仕組み債に5,000万円投資した」。
アップサイドがゼロでダウンリスクしかないと言う仕組みは当然知らないのだろう。何より原資はおそらくオプションのプットの売りの保証金であろうから「金利」ではない。「参照する」という言葉を用いているところを見ると記者も仕組み債の仕組みを知らないのかも知れない。たぶん目論見書を見せてもらって記事にしたのだろう。
以前、証券専門紙の記者に個別株の仕組み債と225リンク債の仕組みを説明したことがあった。できた記事は全くチンプンカンプンのものだった。そんな記憶もある。
「仕組み債」という名前だから形は債券だが、中身はオプション。この図式が流行ったのは20年前。ITバブルに乗った銘柄を対象にした仕組債が乱舞したのが歴史だ。
8%が1年で8%なのか年率換算8%なのかは不明だが、8%をもらえるということはボラは相当大きいはず(償還が3ヶ月後ならば2%=年率換算8%と表現できる)。組成した証券会社が得る手数料も表面上見えないながら相当大きいだろう。しかも米株だから為替リスクも伴っているはず。安全安心とは対局にある投資商品だと思われる。
しかし亡霊のように現れた「仕組み債」。かつて組成したことのある身からするとそれこそ「今だに」。時が移ろい人が変わっても、中身は変わらないのが投資の世界の欲望心理なのだろうか。
あるいはリスクを正確に認識しない姿勢は未来永劫変わらないのだろうか。「生きがい」なのか「餌食」なのかの線引きは結構微妙なところにある。
今日の朝刊で登場したのは、相場予測をしない46歳の投資家さん。すべて日ばかり商いで1日に300銘柄の商い。寄りで場売り買いし大引け直前に反対売買。15年での稼ぎが2億円。ネット証券の担当者がこの投資家に営業をかけるというのは本末転倒の姿勢だが…。
必要なのは投資技術ではなくプログラミング技術という指摘。老若男女ともに、株式市場はますます人から遠くなっていく。
image by : William Potter / Shutterstock.com
『「兜町カタリスト」』(2019年8月28日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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