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新規上場したセキュリティサービスのHENNGEは、技術革新で競合を凌いでいけるのか

体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

顧客である少年野球の指導者が、子どもに野球を教えようとする際に障害となり得るのは、子どもが野球に興味を持ってくれないこと。そんななか、佐賀県伊万里市にある敬徳高等学校では、新たな取り組みをはじめています。

2月末、敬徳の野球部員たちは、同じ佐賀県伊万里市内にある大川保育園にいた。園児たちに「ティーボール教室」を開くためだ。

「ティーボールコーン」と呼ばれる、三角形の頂点の部分にボールをのせられる専用のコーンを使った、野球に似た競技。投手はいなくて、ボールは目の前で止まっているので打ちやすい。怖がらないよう、軟らかいボールとスポンジのバットを使う。

反応は上々。永田恵子園長(57)は「バットで打つので、ボールを直接蹴るサッカーと違い、道具を使って考えて取り組む点でいい」と話す。用具は自由に貸し出され、実際に遊ぶ園児もいるという。

ティーボールコーンで野球に興味をもつ子どもが増えれば、結果的に「野球人口の増加」という顧客にとってのすぐれた体験につながる可能性があります。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

社内プロセスの統合という意味で同社グループの課題となるのは、ティーボールコーンにIoTを組み込んで、より多くの子どもたちに楽しんでもらうことです。たとえば、どの子どもが何回ボールを打ったかをボードなどに表示すれば、負けず嫌いの子どもであれば競うようにして遊んでくれるでしょう。

ただし、問題もあります。IoTを使ってボールを打った回数を測定するだけでは容易に競合に模倣されてしまいます。したがって、いかにして子どもの興味を引きつけるかという「娯楽性」がカギとなるでしょう。

いずれにしても同社は「当社グループ自らが新技術を積極的に取り入れ多くの失敗を糧にする」と謳っているのですから、彼らにとっては、小さくはじめて早めに失敗し、顧客からのフィードバックを得ながらIoTサービスを改善していくことが一番です。

では、同社グループがこうしたIoTサービスを手がけるのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社グループはリトル・ハイア──子どもたちがボールを打った回数──を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
IoTサービス創出へ100社連合 東芝やソフトバンク‐日本経済新聞(2019年11月5日公開)
野球人口増やそう 球児が園児指導「子の成長うれしい」‐朝日新聞(2019年7月5日公開)
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2019年11月6日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2019年11月6日号)より一部抜粋

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