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日本も追従する?中国で地方都市・農村向けビジネスが大流行しているワケ=牧野武文

ソーシャルEC「ピンドードー」の誕生

このような下沈市場の特徴をうまく捉えたのが、2015年にスタートしたソーシャルEC「ピンドードー」です。ピンドードーとは「たくさん集める」といった意味のネーミングです。利用者数、流通総額で京東を抜き、第2位のECに浮上をし、2018年7月にはナスダック上場を果たすという勢いのあるECです。

ピンドードーの基本は、共同購入です。自分が欲しい日用品があったら、1人でも購入することはできるのですが、「○○時間以内に○○人を集める」という商品ごとに定められた条件をクリアすると、大幅な割引価格で購入できるというものです。この共同購入者を集めるのにWeChatなどのSNSを使います。買いたい商品の情報を簡単にWeChatに転送できるようになっているので、これを友人知人に送ります。もちろん、「一緒に買わない?」「前使ったけどすごくよかったよ」などのメッセージをつけることでしょう。受け取った友人はその情報をタップすると、簡単に購入ができるようになっています。

これが下沈市場の消費者たちの口コミ重視の感覚に合いました。ピンドードーは瞬く間に下沈市場を中心に浸透していったのです。

ピンドードーの賢いところは、単に下沈市場に目をつけただけではなく、地方のビジネスをも成長させようとしているところです。地方のビジネスを成長させることで、経済力をつけさせ、それでECで買い物をしてもらおうというわけです。

ピンドードーに多く出品しているのは、地方の弱小メーカーです。例えば、あるトイレットペーパーは、50ロール(半年分)が6.8元(約106円)で販売されています。1ロール6.8元ではなく、50ロールで6.8元なのです。驚きの安さというか、安すぎて不安になる安さです。

ただし、品質はそれなりです。この6.8元のトイレットペーパーを買ったことがある人に聞いたところ、「ミシン目のところでは切れずに、ミシン目以外のところで切れる」と言っていました。また、おそらく再生紙をリサイクルするときの工程の問題だと思いますが、小さな黒い粒のようなものが繊維の中にいくつも埋まっているといいます。健康上問題があるようには思わないものの、やっぱりなんとなく気持ちが悪いと言っていました。

特に、ピンドードーがスタートした頃は、このような品質の低い商品が、激安価格で販売されていたことから、「貧乏人のEC」とバカにされることも多かったのです。現在でも、このような低品質の商品もありますが、割合は少なくなってきて、真っ当な商品が一般的になっています。

ピンドードーに出品をしているのは、多くが地方の弱小メーカーです。地方メーカーは大手に比べて、技術力、生産力、宣伝力、販売力、あらゆる面で劣ります。中国の経済が発展するにつれて、このような地方メーカーは淘汰されていく以外道はありませんでした。

「品質は高くないけど安い」というセールスポイントで生き延びていくことも可能ですが、それには宣伝力と販売力が必要です。地方メーカーにこの2つはありません。

ここにピンドードーがうまくハマったのです。ピンドードーでは、宣伝は消費者自身がやってくれるのです。もちろん、製品そのものに価格や安さ、機能などに特徴を出すことは必要ですが、影響力のある消費者が気に入ってくれれば、そこを起点に情報が拡散し、大量に売れる可能性があります。

また、ピンドードーへの農産物の出品も増えています。今までは農家は、地域の農産市場に出荷をする以外、収入を得る道がありませんでした。価格は市場が決めてしまうので、原価割れをしてしまう価格でしか売れなくても、農家には出荷するか、廃棄するかの選択肢しかなかったのです。しかし、ピンドードーが登場したことで、市場流通とは異なる流通が生まれました。規格に合わない、以前であれば自家消費するか、廃棄するしかなかった農産物を格安で出荷する。あるいは、特徴のある農産物であるのに、他の農産物と同一視され、安い価格でしか市場に出せなかった農産物をピンドードーで高級品として適正価格で販売する。

すべての弱小メーカー、農家が成功できるわけではありませんが、ピンドードーを活用して、収入を大きく増やした弱小メーカー、農家が登場するようになりました。

また、ベビー用品、若い女性向けの化粧品、特定分野のスポーツ用品、オーガニック食品といった専門性の高いソーシャルECも下沈市場では好調です。大都市ではこのようなニッチな専門店は、繁華街やショッピングモールに出店していますが、地方都市を中心するに下沈市場では、リアルな専門店はほとんどありません。そのため、ソーシャルECで購入する人が多いのです。遠くの街まで行かなくても買うことができ、ソーシャルによる口コミがあるので安心して買うことができるからです。

ピンドードーでもこのような商品を扱い始めている他、専門のソーシャルECが次々と登場しています。いずれもニッチな市場を狙っているため、売上規模は大きくありませんが、専門性の高いソーシャルECの成長が目立つようになり、女性向けの「小紅書」「モーグー街」、若いお母さん向けの「雲集」「三里人家」が注目されるようになっています。

Next: 経済の成長というのは、人口ボーナスに依存をしています。どの国でも――

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