エヌビディアにメリットはあるか
私は個人的にはこの買収は買収価格が高すぎるし、価格以外の点でもシナジーを出すのが難しいディールだと考えています。
まず、エヌビディアという会社の説明をしたいと思います。
エヌビディアは、1993年に設立されたGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)という画像処理に使う演算装置やプロセッサの製造を得意とする会社です。創業者は、ジェン・スン・フアンという台湾系アメリカ人です。
GPUは、元々はゲームに使われることが多かったのですが、近年ではAIやディープラーニングの分野でGPUが活用されるようになっており、データセンター向けのGPU等が急速に伸びています。
非常に成長性が期待されている企業です。実際に業績も伸びており、2020年1月期決算は売上約1.2兆円、営業利益約3,000億円という規模になっています。
1999年にナスダックに上場していますが、直近で時価総額約34兆円と世界一時価総額の大きい半導体製造会社になっています。
アームはCPU(セントラル・プロセッシング・ユニット)という中央処理装置又は中央演算処理装置という、コンピュータにおける中心的な処理装置(プロセッサ)の設計とライセンシー供与を業としている企業です。
エヌビディアは、GPUは圧倒的に強いのですが、CPUのIP(知的財産)は保有していません。
今回アームを買収することにより、GPUもCPUも扱う半導体製造会社としての地位を確立したいという意向があると思います。
アームの顧客から不満の声
ただし、アームの顧客にはエヌビディアのライバルと見なされている先もかなりあります。
今まではSBGという半導体事業と関係のない投資会社の傘下にありましたので、どの顧客にも全方位外交ができました。
例えると、ある独立系の自動車部品会社が、ある日トヨタの傘下に入ったとします。今までは日産の部品もホンダの部品も作っていたのに、トヨタの傘下に入ると、他の自動車会社は発注しづらくなります。
特にアームは半導体の設計という特許に関わる難しい部分を担っているため、顧客はセンシティブになります。
この報道がされた後、すでにアームの顧客の一部から不満の声が出ているような報道がされています。もしかしたら、これから顧客離れが起きる可能性があります。
アップルのような顧客は良いですが、半導体製造業者はかなり離れる可能性もあります。
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