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「金相場バブル崩壊」論者が見落としていること。真の上昇相場はこれからだ=江守哲

金相場はまだバブルにさえなっていない

2,000ドル超からの調整局面で、「金相場のバブルは崩壊した」などと指摘する向きもいるようだが、今回の金相場はそもそもバブルにさえなっていないというのが私の考えである。

バブルの定義は人それぞれであり、明確なものがあるわけではない。ただし、資産価格の動きに関していえば、私は「10年から15年の期間に、価格が10倍から15倍に上昇」したケースをバブルと定義づけている。

このような上昇相場になる市場や銘柄は、実際にはそう多くない。過去のグローバル市場において、このような上昇を見せたケースは、1980年以降ではわずか5回である。1980年の金価格高騰、1989年の日本の資産バブル、2000年のドットコムバブル、2008年のコモディティバブルがそれらに相当するだろう。思い出せば、どれも歴史的な大相場だったといえる。そして、これらの大相場の上昇期間はおおむね10年から15年で、価格は10倍から15倍になるのが平均的な動きである。

また、直近の米ハイテク株の急騰もこれに相当するだろう。今回の上昇相場はすでに上昇期間が10年に達しており、資産価値は38倍になっている。これまでの定義に当てはめれば、明らかにバブル相場といえる。無論、今後も高値での推移を続ける可能性は否定できない。

一方、今回の金価格の上昇は、8月の高値を基準にしても、2倍にもなっていない。つまり、バブル相場と呼ぶにはあまりに小さい上昇といえる。

私が考えるバブルの定義に当てままるには、金価格は2025年から30年にかけて、最低でも1万ドルを超える必要がある。したがって、いまの金市場は、とてもバブルの状態とは呼べないというのが私の考えである。

バブル化するのは「これから」

さて、今回の金相場の上昇基調が、最終的に上記のようなバブル化して終わる可能性は十分にあるのではないかと考えている。

その最大の理由は、米国の財政拡大と緩和的な金融政策の継続にある。新型コロナウイルス感染拡大に対応する追加経済対策について、与野党協議が進められている。現時点では、両者の考えに隔たりはあるものの、いずれこれは決めざる得ないだろう。

拡張的な財政はさらに悪化し、これが金価格を押し上げることになることは、これまでの金価格との連動性を見れば容易に理解できる。特に近年の米財政赤字を米GDPで割ったレシオと金価格はほぼ同じ推移をたどっている。GDPの伸びが鈍化する一方、財政赤字が拡大する可能性が高いことを考えれば、このレシオはますます悪化し、金価格の押し上げられることになるだろう。

また、FRBが、インフレが2%に達したあとも、その水準を緩やかに超過するようになるまで、引き締めを行わないことを宣言したことも非常に大きな材料である。

私はFRBにはインフレを微調整する能力はないと考えている。上記のようなFRBの考え方には、「中央銀行は経済・市場を意のままに操れる」といった前提あるように感じる。しかし、2%の物価目標さえ達成できない中銀が、自分たちがインフレを自在に操れるかのように語ることに強い違和感がある。

インフレ率を2%まで引き上げ、さらに超過させることができていないのだから、FRBが思うようにインフレ率は操れないと考えるのが自然であろう。今後米経済が回復し、失業率が低下した場合でも、政治的な圧力から引き締めはできないだろう。そうなると、インフレ上昇が起きた場合でも、政治的な圧力があることから、FRBは引き締めができないと言い訳できることになる。

こうなると、インフレが加速してしまい、FRBの手に負えなくなることが想定されるのである。許容する物価上限がオーバーシュートを許さない上限だった時代には、インフレが上限を超えないように、上限に達する前に金融引き締めを始めていた。それでも、インフレを思い通りに操るのは至難の業だった。しかし、今回はオーバーシュートを許すのだから、インフレ抑制のための利上げは必然的に遅れることになるのは必至である。

さらにFRBは、「まだ経済がよくないから」ということで、利上げを遅らせるための「言い訳」ができる。

このように考えると、インフレが高まる材料は揃っているといえる。あとは、実際にインフレになるかどうかにある。このような状況で財政悪化が加われば、金価格はさらに上がりやすくなることはいうまでもないだろう。

Next: 米ドルが弱くなるのは必然。金の価値はさらに上がっていく

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