日銀のマイナス金利導入の直接的な目的。そして何が起こるか
民間銀行は国債を政府から買うと、その代金を政府に支払います。それは私たちの預金です。その時点で、私たちは政府に「金を貸している」ことになるのです。それも、「有無を言わさず」です。
しかし、日銀はすぐに買いオペを実施して民間銀行から国債を買い取ります。その代金は、信用創造によって日銀が1万円札を印刷して民間銀行に代金として支払うのです。
その代金は、日銀に開設されている民間銀行の当座預金に振り込まれます。
もともと、日銀と取引を行っている民間銀行は、一定割合の所要準備金を「準備預金」として日銀の当座預金に預けることが義務づけられています。
1月29日現在の「準備預金」の額は254.7兆円に上っており、なんと234.7兆円分が「超過準備預金」となって、日銀の当座預金として眠り続けているのです。この234.7兆円分の「超過準備預金」に年0.1%の利息が付くため、民間銀行は政府の担当者から「今度発行する新規国債を買うように」と、命令口調で言われても大人しく従ってきたのです。
しかし、2月16日からは、民間銀行が日銀に国債を売った際に、日銀から当座預金口座に振り込まれる代金が「準備預金」として積み増しされた分については、マイナス0.1%という名目上のマイナス金利が付くことになったのです。
この措置を、もっと分かりやすい話に置き換えると、傘を持っていない人が、やっと見つけたとあるレストランに入ったところ、料理どころかコップ1杯の水さえ出さないレストランだったということです。
さらに、レストランの椅子に座っている時間分だけ、「雨宿り賃」として支払わなければならない、ということなのです。
誰でも、レストランに行けば、おなかを満たしてくれると思っているところに、逆に懐を寒くされてしまうレストランだったというわけです。
しかたなく、その人は空腹のままレストランから出ていって、雨に濡れながら何か食べさせてくれる場所を自分で探さなければならない、ということなのです。
また、有料パーキングにたとえることもできます。
新車を買ったある男が、月極の有料駐車場にその新車を預けっ放しにしておけば、時間の経過とともに新車の価値が減価されていくだけでなく、駐車料金を支払わなければなりません。
それではかなわんと、その新車のオーナーは、できるだけ車を使うように遠出をするのですが、免許を取りたてであるため、事故を起こさないか戦々恐々で運転するのです。
日銀のマイナス金利導入の直接的な目的は、2月16日以降、民間銀行が国債を日銀に売って得たお金は、雨の中を彷徨ったり、遠出をしたりして「安住の地」を自分たちで見つけなさい、というものです。
今回の措置は、234.7兆円分の「超過準備預金」には適用されませんが、日銀・黒田総裁の狙いが、この莫大な「超過準備預金」を市場に出したいということあることは自明です。
しかし、問題は、外はどこも雨降りだということです。
快適に雨宿りできる場所をたくさん作ることこそが政府の仕事なのですが、憲法改正にばかり囚われている政府は、今まで何の有効な経済政策も打って来なかったため、雨宿りの場所を自力で見つける体力を持っていない脆弱な銀行にとっては、下手をすると風邪をひいてしまうか、最悪、低体温症で死んでしまう危険さえあるのです。それがまっさきに訪れるのは地銀でしょう。
ここまでで、人々は、いったい、どんなシナリオを描くでしょう。
それは、政府が新しい産業セクターを育成する国策事業に踏み出さない限り、この234.7兆円の巨大な余剰資金は市場に出て行かない、ということです。
それどころか、今の安倍政権では、せっかく助け舟を出した日銀に再び圧力をかけ、国債の発行額をさらに増やそうとするだけでしょう。
そうすれば、何が起こるか――それは、前号のメルマガで書いたとおり、銀行は国債の買いに殺到し、その国債の価格が上がるのを待って日銀に買い取ってもらうことなのです。
1月29日の政策金融決定会合で日銀がマイナス金利導入を決定してから11日目の2月9日、長期金利の代表である10年国債の利回りがマイナス0.035%と史上初めてマイナスになりました。
10年国債を買った銀行は、満期が来る10年後まで保有し続けると、元本(買ったときの値段)を割り込んでしまうので損をすることになります。
しかし、民間銀行は10年国債の買いに殺到しているのです。なぜなのか…それは、マイナス金利が付いている10年国債でも日銀は買い取ることを約束しているからです。
そうすれば、民間銀行は、とりあえず10年国債を買っておけば良しと考えるので、買い手が大勢いる10年国債の価格はつり上がっていきます。
Next: 考えられる3つの危険なシナリオ