米国内の秘密口座が守られる仕組み
これはどういうことかというと、アメリカは「外国口座税務コンプライアンス法」を楯にして、他の国々の金融機関に口座内容などの情報をすべて開示するように求めるが、アメリカ国内の金融機関の情報は他の国に対して一切公表しないということである。
つまりこれは、アメリカ国内に租税回避のための秘密口座を持っていたとしても、これを他の政府に開示する義務はないことを意味している。つまり、アメリカ国内のタックスヘイブンはまったく問題ないということだ。
これは米国内にタックスヘイブンを作ると、国内外から集まる富裕層の資産は米国内で投資・運用されるため、米経済の成長に利するからだ。反対に、米国人の資産が海外のタックスヘイブンに流れると、海外で運用されるため米経済にはプラスにならない。
いま米国内では、ネバダ州、サウスダコタ州、デラウエア州、ワイオミング州の4つの州がタックスヘイブン化している。
アメリカでは租税は基本的に州政府が決定しているが、これらの州では「法人地方税」と「個人住民税」がない。さらに、破産したときに州内にある財産の差し押さえをできないようにする「倒産隔離法」なるものが存在しているところも多い。
また、どの州でも簡単な用紙に記入するだけで、誰でも会社が設立できてしまう。
OECDが成立させた「共有報告基準」にアメリカが調印を拒否したことは、米政府が国内のタックスヘイブンを維持し、そこに集中した世界の富裕層の資産を米政府自らが他の国の政府の追求から守ることを宣言しているようなものである。
「パナマ文書」が米国に資金を集中させる
さて、このように見ると米政府の国策機関である「ICIJ」がなぜ「パナマ文書」をリークし、なおかつその内容を選択して流しているのか分かってくるはずだ。
世界の富裕層は「モサック・フォンセカ」でペーパーカンパニーを設立して実態を隠し、架空の法人名でパナマをはじめ世界のタックスヘイブンのオフショア金融センターで資金を運用している。
「パナマ文書」のリークでペーパーカンパニーの本当の所有者がだれであるのか分かってしまうため、米政府やOECD諸国が「外国口座税務コンプライアンス法」や「共有報告基準」を適用してオフショア金融センターの銀行に口座の開示を迫ると、実際の資金の運用者の名前が明らかになり、本国の租税の徴収対象になってしまう。
これを回避するためには、ペーパーカンパニーと銀行口座の所有者の本当の名前が公表されるリスクが絶対にない地域に、富裕層は資金を早急に移動させる必要がある。
そうした国・地域こそが米国内の4つの州なのである。これから世界の富裕層の巨額の資産は、アメリカへと一気に移動すると見られている。この資産をアメリカ国内に引き寄せることが、「ICIJ」のような国策機関が「パナマ文書」の内容を選択的に公開した理由であると見て間違いないだろう。