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米利上げ“匂わせ”は中国攻勢の一環。政治的だったFOMC、日米経済にも返り血警戒=斎藤満

米FOMCでは予想外にタカ派発言が目立ちました。表向きには米国経済の急回復が挙げられていますが、本音はインフレ警戒です。さらに、同時期に開催されたG7で中国台湾問題に大きく切り込んだことを考えると、金融政策を通じた中国攻勢の一環とも考えられます。『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2021年6月11日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

米利上げは早まった? FOMC、予想外のタカ派展開に

6月15日・16日の両日に開催された米国でのFOMC(連邦公開市場委員会、米国版金融政策決定会合)では、予想外のタカ派展開が見られました。

前回までの会合では、資産買い入れ縮小は時期尚早で、利上げは早くても2024年以降となっていました。

ところが、今回の会合では2023年に利上げを予想するメンバーが18人中13人となり、このうち11人は2回以上の利上げを予想しています。

超ハト派の地区連銀総裁が、少なくとも2人はいるので、執行部も23年には利上げへと見方を変えた可能性があります。

また、現在国債を月に800億ドル、住宅ローン担保証券を月400億ドル、あわせて1,200億ドルの債券保有を増やす策を講じていますが、これについての議論を始めた可能性を示唆し、次回以降の会合でも資産買い入れペースや資産構成について議論すると示唆しました。

表向きは経済の進展。本音はインフレの警戒

このタカ派急展開の背景として、表向きは米国経済の急回復が挙げられています。まだコロナの不確定性は残るものの、ワクチン接種の進展と、財政金融両面からの政策支援から、米国経済は急進展し、雇用も物価も目標に向かって前進している点を評価しています。

実際、FOMC参加メンバー18人による経済見通しを見ると、今年10-12月のGDP前年比は、3月時点では6.5%と予想していいたのが、今回は7.0%に引き上げられました。

それ以上に大きく修正されたのが、インフレ見通しです。今年の個人消費デフレーター上昇率は、3月時点で前年比2.4%と見ていましたが、今回は3.4%に大きく引き上げました。

昨年春がコロナの影響で物価が下げた面はあるものの、今年4月の個人消費デフレーターは前年比3.6%の上昇となり、5月の消費者物価は前年比5.0%の上昇で、今年に入って5か月間で、すでに2.7%も上がっています。

5月の生産者物価(PPI)も前年比6.6%も上昇しています。これらはいずれも当局の予想を上回るハイペースの上昇で、当局が容認する「2%を多少上回る」レベルを超えています。

FRBのパウエル議長はFOMC後の記者会見で、インフレ率上昇の原因について問われ、「潜在成長率を上回る現実の成長による需給のひっ迫」を挙げました。FRBはこれまで春から夏にかけてのインフレ上昇は、昨年コロナで下げた影響と、感染縮小で規制が緩和され、需要が短期的に高まる「一時的」なものと説明してきました。

しかし、今回の経済見通しでは、長期的な成長率(潜在成長率とほぼ同義)が1.8%とされるのに対し、今年の年間成長率が7.0%、22年が3.3%、23年が2.4%と、3年連続で潜在成長率を超える高い成長が続くと予想しています。

そうであれば、この間需給ひっ迫によるインフレの上昇が続くことになり、「一時的」なインフレの高まりというこれまでの説明とは異なります。

つまり、まだコロナで職を失い、まだ職に戻れない労働者が何百万人もいるから、賃金も物価も上がらないと考えていた前提が間違えていた可能性があります。

しかし、これまで徹底してハト派姿勢を見せてきたFRB執行部までもが、なぜ急に緩和の縮小に前のめりになったのか、他にも事情がありそうです。

Next: なぜ急に緩和の縮小に前のめり? FRBとバイデン政権の狙いとは

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