既存のワクチンで「ADE」発生は確認されていない
このような情報を目にすると、「ADE」は特に中国製ワクチンで頻繁に発生しており、危険であるとの印象を受ける。もしかしたら「ファイザー」や「モデルナ」など、いま日本でも接種が進められているワクチンでも発生しているかもしれない。ワクチンを接種すると、感染したときに逆に重症化するというリスクだ。
しかし果たして、既存のワクチンで「ADE」の発生は確認できるのだろうか?
意外な見方も出ている。6月27日、「インドネシア医師会」は、「ADE」はデング熱またはデング熱ワクチンにのみ見られる現象であり、現在流通している「シノバック(中国)」、「シノファーム(中国)」、「カンシノ(中国)」、「スプートニク(ロシア)」、「アストラゼネカ(英)」、「モデルナ(米)」、「ファイザー(米)」などのワクチンでは見られていないとした。
たしかに「ADE」は、ワクチンが開発中だった2020年の半ばくらいまでは、新しいワクチンの可能性のあるリスクとして警戒されていた。しかしながら、「ADE」を引き起こさないスパイクタンパク質を動物実験などを通して開発段階で特定したため、いま流通しているどのワクチンでも発生は確認されていない。先の「インドネシア医師会」の見解が、医療専門家では一般的なもののようだ。
もちろん、ワクチン接種で「ADE」が発生するのかどうかはまだ研究中なので、はっきりした結論は出ていない。将来、「ADE」の発生がワクチン接種で確認される可能性もある。しかし、いまのところワクチンの副作用として「ADE」の発生は観察されていない。
当メルマガでも何度も書いたように、特にいま接種されているmRNAのワクチンにはリスクがある。しかしそれは、少なくとも「ADE」発生のリスクではない。
中国製ワクチンの真実
また、「ADE」の発生が特に懸念され、効果が弱く役立たずだとして非難されている中国製ワクチンだが、調べて見るとどうもこれも実態とはかなり異なるようだ。
たしかに「JPモルガン・アセット・マネジメント」は、バーレーン、モルデイブ、セイシェルでは感染拡大が深刻化しているとしていた。また「オックスフォード大学」も「世界で最も感染率の高い上位10カ国のうち、パラグアイを除く9カ国が中国製ワクチンを採用している」としていた。
しかしこれは、今年の6月初旬までのデータをもとにした結論だった。7月の初旬からは、まったく異なる状況が出現している。中国製のワクチンを供給しているバーレーン、モルデイブ、セイシェルでは、感染者の拡大がかなり抑制され、感染防止のための社会的行動規制もほとんど解除されている。また、いま中国製ワクチンの接種が進んでいる以下の国々では、感染者は確実に減少している。右の数値はワクチンの接種率である。
ハンガリー 54.4%
チリ 61.9%
バーレーン 63.0%
モルディブ 48.7%
セーシェル 69.8%
モンゴル 57.1%
一方、中国製ワクチンの接種率が低い国々では感染の拡大は押さえられていない。
インドネシア 6.1%
カンボジア 25.1%
こうした結果から見ると、どうも中国製ワクチンの接種率が40%の水準を越えると、明確な感染抑制効果が出てくるようだ。
また「ADE」だが、中国が公開しているデータや、その他の国の研究データなでどでは、いまのところその発生は確認されていない。もちろんこれからどうなるか分からないが、いまのところ中国製ワクチンで「ADE」の心配はなさそうだ。
中国製ワクチンの効果への疑念は強く、「BBC」などの海外のメディアも、中国製ワクチンの信頼性を客観的に評価する記事をたくさん書いている。
臨床試験ではいまのところ、中国の「シノファーム」と「シノバック」は、「ファイザー」や「モデルナ」などのmRNAワクチンに比べ有効性が低いという結果が出ている。「WHO」に提出されたデータによると、ブラジルで行われた治験では「シノバック」の発症予防効果は約50%、重症化予防効果は100%だった。「シノファーム」の有効率は発症予防、入院予防ともに推定79%だという。
一方、「ファイザー」や「モデルナ」の場合、発症予防効果はどちらも90%以上に達する。世界規模で行われた「ジョンソン・エンド・ジョンソン」の有効性研究では、中程度から重症の予防効果は66%、重症の予防効果は85%、死亡の予防効果は100%だった。
多くの専門家は、中国製ワクチンを使った地域での感染拡大について、こうした有効率から予想される結果とおおむね一致していると指摘している。要するに、「ファイザー」などに比べると、中国製ワクチンの有効性は劣るものの、それなりの感染抑制効果や重症化予防効果が期待できるということだ。どうも日本で一般的に流通している「中国製ワクチン役立たず論」は、あまり根拠のないイメージにしか過ぎないようだ。
Next: 日本はここから正念場?五輪後に要警戒