反グローバリストの騎手としてのロシア
では、なぜ「CFR」を基盤にしたバイデン政権は、ロシアと敵対関係にあるのだろうか?それはロシアが反グローバリストの騎手としての立場を明確にしているからだ。このメルマガでも何度か紹介したことがあるが、プーチン大統領が一貫して発しているメッセージは「新ユーラシア主義」に基づいている。現代の「新ユーラシア主義」の代表的な思想家はアレクセイ・ドューギンだが、その思想は次のようなものだ。
ドューギンは、20世紀までは、(1)自由民主主義、(2)マルクス主義、(3)ファシズムという3つの思想が社会形成の基礎となる思想として存在していたという。しかし21世紀になると、マルクス主義もファシズムを姿を消し、「自由民主主義」が唯一の思想として残った。
「自由民主主義」は、市場経済と民主主義という2つの基礎をもつ。現代の世界は、このシステムがあまりにグローバルに拡大したので、だれも自由民主主義をイデオロギーとしては認識せず、自明の常識として理解している。このため、それぞれの文化圏が本来もつ独自な社会思想は無視され、どの文化も、市場経済と民主主義というまったく同一の鋳型にはまらなければならない状況になっている。これが、グローバリゼーションがもたらす悪しき統一性である。
これほどそれぞれの文化圏の独自性を無視する思想はない。どの文化圏も、その文化に独自な社会思想を基盤にしてユニークな社会を構築する権利がある。この権利を追求し、グローバルな「自由民主主義」に対抗する第4の思想の潮流こそ「新ユーラシア主義」である。
「ユーラシア」は、アジアでもなく、またヨーロッパでもない独自な価値と社会思想が伝統的に存在している地域である。その価値と思想は、多民族的で多文化的であり、多くの民族のバランスの元に成り立つものだ。
ロシアは、このユーラシア的価値の守護者として振る舞い、どこでも同じ価値を強制する「自由民主主義」に対抗しなければならない。そして、ロシアが「新ユーラシア主義」の守護者となることで、中国は中華文化圏の、ヨーロッパは欧州文化圏の、そして北米は北米文化圏のそれぞれまったく独自な価値を社会思想として追求し、それぞれ独自な社会を構築することができる。ロシアこそ、こうした運動の先駆けとならなければならない。
「新ユーラシア主義」は急進右派が結集する機軸
これが「新ユーラシア主義」だが、この世界的な影響力は非常に大きい。周知のように、いま世界各地では極右とも呼ばれる急進右派のポピュリストの政治勢力が大変に大きくなっている。フランスの「国民戦線」やドイツの「ドイツのための選択肢」、ハンガリーの「フィデス・ハンガリー市民連合」、そして共和党の主流となったアメリカのトランプ派などはこうした政治勢力の典型だ。欧米では、トランプをはじめ政権与党となっている国も少なくない。
日本の主要メディアでは、移民排斥と自国の国益を優先した一国主義の政治勢力として紹介されることが多い。だが、こうした急進右派の政治勢力の理念は、ロシアが掲げる「新ユーラシア主義」とほぼ同じだ。自由な民主主義と市場経済を唯一の普遍的な原理として世界を統合するグローバリズムに強く抗い、それぞれの文化圏に固有な価値観と原理に基づく社会の統治を主張するのが、急進右派の特徴である。
その意味では、どの急進右派の政治勢力もプーチンをアイドル化し、ロシアを反グローバリズムの代表的な国として見ている。これらの政党はロシアと融和的な関係を構築することが多い。トランプがロシアに対して融和的な態度を堅持したのもこの現れだ。いまも共和党の主流となったトランプ支持者の間では、プーチンとロシアの人気は高い。
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