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「円安は日本経済にプラス」は本当か?自国通貨安に苦しむ国が多数、日本も経済構造の変化で窮地に=斎藤満

自国通貨安がプラスになる条件

そもそも自国通貨の価値が下落して喜んでいる国、通貨安を望んでいる国は多くありません。むしろ自国通貨安に苦しんでいる国のほうがはるかに多くなっています。

現在のロシア、トルコは大きく通貨安が進み、これまでもアルゼンチンやベネズエラがやはり通貨安で苦しみ、97~98年はアジア通貨が下落して通貨危機を迎えました。

通貨価値の下落はインフレを伴って国民の購買力を低下させます。

それでも日本やユーロ圏は通貨高を嫌い、金融政策を緩和気味にして密かに通貨安を演出しています。これは世界から見れば例外的な形です。

では、なぜ日本やユーロ圏が通貨安を目指すのでしょうか。

それは国内に貯蓄余剰があり、デフレ圧力がかかっていたためです。裏を返せば、自国通貨安が有効な条件は、自国内に貯蓄余剰(需要不足)があり、デフレ圧力があるときです。

国内に需要が不足し、貯蓄が余剰な状況が続くとデフレ圧力が強まります。財政需要を追加したくても財政赤字が大きくて限界があれば、通貨安を利用して輸出拡大、輸入抑制により、需要を補い、国内生産を高めることができます。結果として自国通貨安によって国内のデフレを海外に輸出することができます。

円安で薄利多売型に

これは一見、国内生産(GDP)拡大に寄与するように見え、実際マクロ経済モデルでは自国通貨安はGDPを押し上げる形になっています。しかし、例えば日本で円安を続けると、輸入価格が上昇する一方、輸出は手取りが増えるので、通常ドルベースの価格を下げ、価格競争力を強めて輸出数量拡大を図ります。

このため、円安が続くと日本では輸入物価に比べて輸出物価が割安となり、いわゆる交易条件(輸出物価/輸入物価)が悪化します。

これは販売価格を下げて数をこなす「薄利多売型」の商売で、生産や販売数量は増えますが、マージンが縮小するので、数をこなした割に所得が増えません。極端なケースは「ただ働き」するようなものです。

実際、コロナ前のインバウンド需要が旺盛な頃、海外からの旅行者はこぞって日本の製品、サービスは安いと言い、海外からの旅行者が円安で大きな利益を上げました。かつて80年代、90年代に「強い円」を利用して日本の旅行者が海外で安くものを買えていたのと同じです。

ところが、今では円安で日本人旅行者は高い旅行を余儀なくされ、円安は外国人に大きな利益となっています。

そして日本の1人当たりGDPはOECD加盟38か国のうち、23位に後退しました。お隣の韓国にも抜かれました。円安によって日本を「安売り」した結果、日本のGDPや賃金はこの20年間、ほとんど増えず、賃金はむしろ減少しています。

例えば、円安となった昨年10-12月の日本のGDPは前期比1.1%成長でしたが、GDI(国内総所得)は0.5%成長に留まっています。生産では数をこなしても交易条件の悪化でマージンが縮小し、所得が増えない非効率な形になっています。そして、これが賃金の低迷の源になっています。

逆に円が80円割れとなった95年4-6月は、超円高でも個人消費が増えてGDPを支え、景気は堅調でした。

Next: 円安の「ぬるま湯」に浸かって腑抜けになった日本のグローバル企業

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