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米金利上昇で予想される住宅ローン破綻者の続出。パウエル発言から始まる世界恐慌への道=吉田繁治

ジャクソン・ホール会議までのFRBの物価予想の遍歴

今年の、パウエル議長のスピーチの意味を理解するには、その前、1年からのFRBと物価予想の関係を知っておかねばならないでしょう。

2021年8月のジャクソン・ホール会議では、パウエル議長は「物価の上昇は一時的」と断定し、金融引き締めの対策は取りませんでした。

金融市場はインフレのなかでの、利上げがないことを歓迎し、株と住宅を買い上がって、バブル色を強めていったのです。

米国の物価は、21年4月から上がっていました。FRBは、正当な分析と、予想をしていなかった。

ところが、21年11月には一時的ではなく、高まった物価(CPI)を見て、一時的としていたFRBは狼狽し、2022年の利上げと量的緩和の縮小の予定を言うと株価は下がりました(将来の金融政策を言うフォワード。ガイダンス)。

パウエルは法律家であり、金融政策では岸田首相に似て「誤りを指摘されるとその意見を聞き」右往左往します。この点、元議長のバーナンキやグリーンスパンのように、自己知識に確信をもつ銀行家とは違います。

2021年12月からは、コロナ危機への金融対策(20年4月から量的緩和4兆ドル)で、2万ドルから3万5000ドルまで1.75倍に上がっていた株価が、ピークアウトしています。NYダウは、21年12月末の3万5000ドルがピークだったのです。

ウクライナ戦争後の22年3月には、財務長官のイエレンが8%台を超えた物価を見て「われわれの物価予想は誤っていた」と国民に向かい、陳謝しました。

政府が、経済予想の誤りを認めるのは、米国では異例です。日本では皆無です。「官は無謬」とされます。

22年3月には、FRBは、11月のフォワードガイダンスに沿って0.25%の短期金利(FF金利)を、0.25%上げました。その後6月には0.5%、7月には0.75%と、連続的に利上げをしています。
(FF金利:2022年1月から7月)

米 フェデラルファンド金利日足(SBI証券提供)

米 フェデラルファンド金利日足(SBI証券提供)

この利上げは、22年3月まで年率20%で増えていたマネーサプライも減らし、負債による金融投資を減少させたのです。

NYダウは、22年1月初旬の3万6,600ドルから2万9,300ドル(22年6月)まで20%下げています。

ただしその後、7月からは、インフレの元だったエネルギー・資源価格への楽観が市場を、再び支配し、3万4000ドルにまで回復していました(+16%:8月25日)。22年7月には、「インフレは終わった」ともされたのです。

以上の経緯のあとのジャクソン・ホール会議です(8月25日から27日)。

ジャクソン会議の前提となったこと

22年7月の、米国のCPIは8.5%と高い。金融政策が参照する、エネルギーと食料品を除いたコア指数も5.9%上昇と高い。原因は、米国の賃金の上昇、5%~6%です。

賃金の上昇とコア物価の上昇率が見合うことは、デマンドプル型のインフレです(米国、日本は違う)。企業が、賃金と販売価格の両方を上げているからです。外為レートでの米ドルは高い。ドル安での物価上昇ではなく、国内要因からの、物価上昇です。

(注:日本の物価上昇)日本では、米国や欧州のような賃金の上昇がない。このため、CPIの上昇は2.5%付近と米欧の8%台、9%台よりは、賃金上昇率の違いの分低い。

賃金の上昇がない日本では

1)輸入エネルギーと資源の高騰、
2)生鮮食品の上昇に加えた、
3)20%の円安

以上がインフレの3大原因です。

米国金融市場の、ほぼ70%の人たちは、資源価格が下がり、米国景気がピークアウトした気配が見えたことから、22年8月の初旬までは

・22年9月の利上げは、0.75%ではなく0.5%の可能性が高い。
・2023年に向かっては、逆の、利下げの可能性も出たと楽観的でした(ヘッジファンドのマネジャー達の空気)。

一方FRBの内部では、「2%台のインフレに戻すまで、金融の引き締めが必要」という厳しい判断が、浮上していたのです(各地の連銀理事の発言)。

パウエル議長は、昨年の会議での「インフレは一時的」という発言に懲りていたのか、今回は「インフレ抑制をやり遂げるまで(=物価上昇率が2%台に下がるまで)金融引き締めを続ける」という強い姿勢のスピーチをしました。

ハト派と見られていたパウエル議長が、タカ派(金融引き締め派)に変わった瞬間でした。なぜパウエル議長の「姿勢の転換」があったのか分からない。

パウエル氏は「歴史は時期尚早な金融緩和を、強く戒めている」とも言っています。1980年の第二次石油危機(CPIは14.8%)のときの、FRB議長ボルカーの「短期金利15%への利上げ」のことを想定したのかもしれません。
参照:「ボルカーのインフレ退治」からの教訓-マネクリ

市場は、パウエルのコトバから「9月の利上げは0.75%、11月もFRBの短期基準金利は上がり、2023年も利上げが続く」と見たのです。

金融トレーダーに、40年前の、二桁インフレの経験がある人はいない。金利が0%に向かって下がる金融緩和の経験しかないのが、金融市場の投資家とトレーダーです。「インフレ抑制」がどんなものになるか、その総体は、想定はできていない。

日本人には、株価+地価バブルが崩壊した1990年から1988年の、30年前の経験があります。

この時期から、構成比で30%だった個人投資家の保有額は、減り続けています(現在は15%)。代わりに35%に増えたのが、ガイジン持ち株です。

1989年までは、友人や知人に株の売買をしている人が多かった。2000年代からは、個人にとって株価は遠いものになっています。

東証は、個人投資家の減少を懸念し、政府は約200万円の投資までは非非課税のNISAを作ったのです。財務省は、「預金から株へ」のキャンペーンを張り、証券会社はそれに乗っています。

ところが、日本人の700万人の個人投資家は、1990年からの株価バブル崩壊で損をしたことから、株の売買を減らしてきました。
参照:主な投資部門別株式保有比率(市場価格ベース)-独立行政法人労働政策研究・研修機構

Next: 日本のバブル株を売り崩したのは、米国投資銀行だった

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