消費税は「預り金」なのか?インボイス制度の問題点
この消費税の計算方法は、単純に消費者がものを買った時に10%支払って、それがものを売った側がそのまま10%分を国や地方自治体に納めるという計算にはなっていません。
ただ、消費者が事業者に消費税分を支払って、それを販売側が“預かっている”わけですから、「預り金」はきちんと納めなければならないという主張があります。
それゆえ、消費税免税制度も含めて、中小・零細企業は個人事業主には、税負担を軽くするための制度により、消費税分が手元に残る「益税」という特例が発生し、その益金の存在は“いかがなものか”という指摘があります。
この観点を、税金などがガラス張りで何の節税もできない“給与所得者”から見れば「不公平感」があるとも言われています。
免税事業者に「益税」が発生するので不公平……「益税」と呼ばれるものは、消費税5%のときに年間5,000億円があったとされています。
1,000万円以下は免税事業になるのですが、その申告は、今までは帳簿を信用していたのですが、これだけ“埋もれた”金額があるのであれば、“登録制”にして管理したほうが良いという発想になったのでしょう。
コロナ禍による「ばらまき政策」により、財政は相当傷んでいますから、こういうときほど、このような発想が生まれやすいのではないでしょうかね、財務省としては…。
法人にしていない免税事業者は、全国で340万人いるそうです。
「益税」に関しては、まず事実として、1990年(平成2年)の東京・大阪地方裁判所判決で「消費税は預り金ではない」「消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部」としています。
このことを強く主張している弁護士や税理士も多く、消費税増税反対や大型店出店規制なども求める運動を展開している全国商工団体連合会(全商連:中小業者が加盟)は、このことをホームページで訴えています。
※参考:判決確定「消費税は対価の一部」――「預り金」でも「預り金的」でもない|全商連[全国商工新聞](2006年9月4日配信)
全商連は、当然インボイス制度導入には真っ向から反対しています。
地裁判決から、消費税は“預り金ではない”という観点から、免税業者が不当に益税分を着服しているという指摘は当たらないとしています。
税制制度には、制度そのものがわかりやすいことと、平等であることが求められます。
軽減税率導入時でも、その複雑性から、また業者間での平等性が失われるとして、慎重であるべきだという議論もありました。
そもそも年間売上が1,000万円も満たない業者は、生活そのものに余裕があるわけではなく、いろんな角度から見て「免税優遇」はあってしかるべきという意見もあります。
でも税制を考える話とこの話は、一緒に語るものではなく、別の課題のような気もします。
もちろん、優遇制度は検討に値するとは思いますが、もっとスッキリとした形で制度設計できないものでしょうかね。
単純明快で平等……確かに、国民全員に10%の消費税をかけるということは、軽減税率をどう考えるかもありますが、単純明快で平等であることはそのとおりでしょう。
しかし「税負担感」「痛税感」でみれば、年収1,000万円超の人と年収3,00万円の人とでは全然違ってきます。「消費税の逆進性」と呼ばれるもので、所得が高い人ほど消費税率の負担割合が下がるという現象です。
昨今、国民負担率(税金や社会保険料の割合)が、令和3年実績で「48%」という過去最高を更新したことが話題になりました。
生活困窮者への税軽減、免除の措置はあっても良いと思いますが、消費税だけは、制度設計上、このような措置をとることは難しいのでしょう。消費税は、一律平等課税の「直接税」だからです。
零細・中小法人や事業者にとって、消費税納税は、事業が赤字でも関係ありません。所得税・法人税の場合は、赤字の場合は「納税額ゼロ」ということがありえますが、消費税だけは、売上がある場合は必ず発生します。
これは社会保険料にも言えることです。だから、赤字経営で社会保険料が支払えないことで倒産する「社会保険倒産」が問題となっています。
そもそも「消費税とはなんぞや」「付加価値税とはなんぞや」という話に立ち返りそうな気もしないでもないですけどね……。