「孤独・孤立対策推進法」が5月31日、参院本会議で賛成多数により可決、成立しました。「孤独」は身体の健康にも悪影響を与えるというのがわかってきていて、対策することで医療コストが抑えられるといいます。しかし、どうやら日本政府がやろうとしていることは、少しずれているように感じます。大手マスコミもほとんど報じていません。(『 らぽーる・マガジン らぽーる・マガジン 』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2023年6月8日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
社会問題としての「孤独」
「孤独」は国を挙げて取り組む社会問題である……英国が世界で最初に「孤独担当大臣」を設置したのは2018年のことでした。任命したのはテリーザ・メイ首相(当時)です。
英国に続いて「孤独担当大臣」を設置したのは、我が国「日本」になります。任命したのは菅義偉首相(当時)です。
英国の「孤独」を語るうえで重要な人物がいます。ジョー・コックス労働党会員議員の存在です。
2016年6月23日、イギリスにおいて、2015年欧州連合国民投票法に基づいて同国が、欧州連合(EU)を離脱すべきかどうかを決めるための国民投票が実施されました。
残留を支持していたコックス議員は、投票1週間前の6月16日に、ウェスト・ヨークシャー州リーズ近郊で国民投票を巡る集会の準備中、銃撃され死亡しました。
「EU離脱」という国家を二分するテーマを国民に直接突きつけたことで、激しい分断が起こりました。
まさに国民投票による犠牲者とも言える事件でした。
彼女は、孤独問題に注目し、超党派の委員会の設置を準備していました。ジョー・コックス議員は、選挙運動で移民や労働者の多い英中部で何千軒と戸別訪問するなかで、多くの人が孤独を抱えていると気づいたとされています。
皮肉なことに、新人議員の地道な活動が、極右の男により射殺されるという事件の衝撃と共に注目を集めることとなり、その遺志を継ぐ機運が高まったのです。
彼女の死後、「ジョー・コックス孤独問題委員会」として、その思いは引き継がれました。
英国では「対孤独戦略」と銘打った2018年10月発表の報告書で、英国政府は「孤独」について次のような定義を採用しています。
「人付き合いがない、または足りないという、主観的で好ましくない感情」
「社会的関係の質や量について、現状と願望が一致しない時に感じる」
経済的観点から「孤独」対策を見ると、「孤独」がもたらす医療コストを抑えることができるというのです。孤独が原因の体調不良、欠勤、生産性の低下、これらは経済においては「損失」要因となりますからね。
「孤独」を解決すれば、医療費が浮く?
「孤立」×「医療(健康)」=「社会的処方」
英国では、地域の初期診療を担う「総合医療医」のもとに訪れる患者の約2割が、医療が必要ではない孤独に悩む人だと言うことだそうです。
医者のもとで、孤独の相談をするのですね。
英国政府は、2023年までに全国の健康医療システムに「社会的処方」を適用する方針を決めています。
総合医療医が医療ではなく「社会的処方」が必要だと判断すれば、「リンクワーカー」に連絡し、リンクワーカーが孤独な人のニーズに合った地域活動への参加を手配したり、ケアを受けたりできるよう調整したりしています。
「リンクワーカー」とは、まさに患者さんのケアについて、医師やケアマネージャーなどの専門職と地域資源との橋渡しをする役割のことです。
こういった「社会的処方」と「孤独・孤立」対策とは、密接な関係があり、ひいては社会保障費縮小にもつながるという経済的効果ももたらすのです。
マスコミではほとんど取り上げられることはなく、ニュースの中でもスルーされがちではありますが、実は「孤独・孤立」は、これからの社会を考えていくうえでは、すごく重要な問題となっているのです。
英国では、政府主導の「孤独について語ろう」キャンペーンも始まっています。