中国当局が同国の経済先行きに楽観的な発言を繰り返す一方、すでに若年層の失業率が20%を超え、地方の労働者は低賃金に苦しんでいます。経済政策も3つの壁を前に頓挫しており、回復のめどが立たない状況。習近平新体制は国民の不満を爆発させないよう、ガス抜きが必要になります。対米強硬姿勢はそのガス抜きに使われている面があり、危険です。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2023年6月14日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
不安払しょくを図る当局
中国の中央銀行、中国人民銀行の易綱総裁が上海で行った発言が、9日に公開されました。
中国の4-6月のGDP(国内総生産)は前年比でみれば比較的高い成長率になる、との楽観的な見方で、さらに現在ゼロ近辺にまで低下している消費者物価上昇率も年末までに1%まで回復する、と述べています。
最近高まっている中国経済のデフレ懸念を払しょくさせる意図がうかがえます。
しかし、その楽観論にも確固たる根拠があるわけではなく、ベース効果(昨年4-6月が0.4%成長と弱かったことで今年の前年比が高く出ることか)による、としています。
問題は高いGDP成長率を提示することで、中国国民や内外の投資家が安心できるかどうかです。統計に不信感がもたれればかえって逆効果になります。
デフレ色が一層強まる
昨年4月はゼロコロナ政策の下で上海などでロックダウンがなされ、経済活動が一時的に停滞したことは事実ですが、その割に今年の4月、5月のデータはさほど反動高になっていません。
前年のコロナの影響を受けにくい指標では一段とデフレ色が強まっています。特に景気変動を敏感に反映するPPI(生産者物価)が、今年になって下落基調を強めています。
5月は前年比4.6%の下落ですが、これは4月の3.6%下落、3月の2.5%下落から下げ幅が加速しているばかりか、2020年のコロナ禍で経済が大きく落ち込んだ時以来の大幅下落となっています。
企業間での需要停滞がPPI下落につながっていると見られます。また消費者物価も4月の前年比0.1%に続いて5月も0.2%の上昇にとどまり、政府の3%目標から大幅に下振れしています。
貿易縮小にロシアの陰
景気面ではウクライナ戦争が中国の貿易に影響している可能性があります。
中国の国内需要が弱ければ、通常は輸出ドライブがかかります。国内で売れない分を輸出ではかせようということになります。ところが、このところ中国の輸出は減少気味となっています。5月もドルベースで前年比7.5%減と、またマイナスになりました。
確かに海外経済は欧米の金融引き締めから、アジア新興国や中南米が景気悪化で輸入を減らしている影響もあります。
同時に、中国がロシアに近づくと、それだけ主要国の中国離れが強まる面があります。実際、5月の輸出ではロシア向けが2倍増となっていますが、それ以外の国が大幅減となっています。輸入もロシアからの輸入は増えていますが、その他地域からは減少しています。
ウクライナ戦争の報道には偏りがあるとの指摘はありますが、ダムの破壊、洪水避難者を襲撃するロシアが報道される中で世界にはロシア悪者論が高まっています。
そのロシアを支援する中国は、やはり西側からは敵陣営との見方が避けられません。実際、米中関係は一段と悪化しています。