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なぜ「処理水」めぐる中国の嫌がらせに日本政府は黙って耐えるだけなのか?保身第一で動かぬ世襲議員の罪=神樹兵輔

危険な放射性汚染物質だったからこそ、海に流せず、タンクに貯め始めたのがスタートライン

福島第一原発の事故を少し振り返って見ましょう。

2011年3月11日、東日本大震災により福島第一原発で事故が発生します。ただちに核燃料を冷やす非常用ディーゼル電源が作動したものの、それが後から来た津波によって使用不能となり、ついには「全電源喪失状態」となります。その結果、炉心内部や使用済み核燃料プールを冷やせなくなった挙句に、福島第一原発では、1・2・3号機ともにメルトダウン(炉心溶融)を招きます。そして、放射性物質が広域に飛び散りました。

こうして事故発生当時は、原子炉内の核燃料を冷やすために、ひたすら外部からの注水を続けるばかりとなったのです。

そしてこの間の汚染水は、海にダダ洩れ状態でした。しかも原発は「放射線管理区域」として、外部から遮断されるべきなのに、雨水は建屋内に降り注ぎ、地下水の流入も深刻でした。

こうして汚染水は増える一方だったため、東電は汚染水からセシウムを吸着したのち、再度原子炉に循環させて冷却に利用する仕組みを取り入れます。このへんで汚染水を海に流している状況はまずい――となってタンクに貯蔵することになります。

そこで、汚染の濃度を薄めるべく、最初に採用したのが、仏アレバ社と米キュリオン社の多核種除去装置(ALPS)です。一説によれば、アレバ社の装置だけで費用は60億円にも及んだそうです。

しかし、急ごしらえのこのシステムは、稼働時からトラブルの連続だったのです。運転開始後の稼働率は5割ほどでした。

その後、新たに導入されてきたのが、東芝製の新装置でしたが、これもトラブル続きでした。

そんなこんなで、まともにALPSは稼働しなかったのです。

今ではようやく日立製も導入され、複合稼働でどうにかALPSとしての機能を何とか保っているとされ、現在に至っています。

しかし、タンク内の水は、3割程度しか、国内の放射線基準値を下回っていないのです。7割は基準値以上の「汚染水」なのです。

すでにALPSを通してタンクに貯められてこの状況なのに、これから再度ALPSを通せば、本当にキレイになるのでしょうか。

それゆえにでしょうか。福島で海洋放出に反対する漁業者を管轄する立場の農水省の野村哲郎大臣(79歳・議員秘書からのたたき上げ・当選4回)は、8月31日、官邸での記者からの質問に「処理水」と言わずに「汚染水」と言い続け、物議を醸している有様です。

結局、福島第一原発では、凍土壁で地下水を遮断する方策もうまくいかず、汚染水の一部が海洋に漏れていた最中に、こんな状態にもかかわらず、2013年9月、故・安倍晋三首相は、東京五輪を招致するため、「福島第一原発はアンダーコントロール(制御下)」などとIOC総会で大ウソをついたのでした。

このへんから、「問題先送り」でタンクに汚染水を貯め続けるしか、もはや大義名分が成り立たなくなったのでしょう。罪作りな話なのです。のちの国会で、当時の安倍首相は、放射性汚染物質は0.3平方メートル内の海域で完全にブロックされている――などと言い訳をしていたものでした。

しかし、外国に向けて、こんな大嘘をついた直後に、福島第一原発敷地内では、貯蔵タンクが傾いて、ろくに浄化されていない汚染水が、ダダ洩れする事故も起きていたのでした。多核種除去装置(ALPS)をもってしても、タンク内の水は、7割が国の基準値を上回る放射線を放つ物質なのです。

これは東電も公に認めていることです。トリチウム以外にも、セシウム134、セシウム137、コバルト60、ルテニウム106、アンチモン125,ストロンチウム90、ヨウ素129、テクネチウム99、炭素14……といった恐ろしい放射性物質が、タンク内の7割にも貯まっているのです。

今回の海洋放出にあたっては、こうしたタンク内の放射線基準値以上の水を再度ALPSに通して、基準値以下にして、残ったトリチウムに関しては、さらに水で薄めて海に流すから安全と言い切っています。

トリチウム以外の基準値以下になった放射性物質は、基準値以下だから安全――とされますが、本当なのでしょうか。

今まで海に流したことがないのですから、本当のところは誰にもわかりません。生態系にどんな影響が及ぶのでしょうか。しかも、これから30年以上も、下手すれば100年以上も流し続けるのですから。本当に安全かどうかわからないのが今のところの真相でしょう。

ゆえに、原発推進派のIAEA(国際原子力機関)からの専門家タスクフォース(米国、英国、フランス、オーストラリア、ロシア、中国、カナダ、韓国、アルゼンチン、ベトナム、マーシャル諸島の11名)によってチェックしてもらい、また米国政府を筆頭とした西側先進国政府の専門家たちのお墨付き発言までをわざわざ得たのです。

政治的な思惑を背景に、「海洋放出反対」を唱えるのは、ロシアと中国、北朝鮮など、お馴染みの「ならず者国家」だけという状況にしています。

Next: 中身は、他国原発の「処理水」と同じと言えるのか?

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