コロナ禍の外食産業で「勝ち組」とされた焼肉店だが、ここに来て倒産が急増していると伝えられている。
帝国データバンクの調査によれば、2023年に発生した「焼肉店」の倒産は、8月までに16件で、22年の同期間に比べ約3倍に。また1~8月の累計としては過去10年間で最多ペースであるという。
近年では、輸送コストの増加や円安の影響により、安価な米国や豪州産などの輸入牛肉価格が高騰したことにくわえ、焼肉人気に着目した異業種の参入が相次いたほか、既存大手の新規出店も重なり競争が激化。
こうした経営環境の悪化により、小規模な焼肉店などでは厳しい価格競争に耐え切れなくなり、淘汰される中小焼肉店が増えているというのだ。
ミートショックでハラミやタンが特に高騰
焼肉店といえば、もともと煙の排気のために吸気ダクトが多く備えられている造りから、飲食店のなかでも特に換気がいいということで、コロナ禍においても比較的客足や売上の低下などの影響を受けなかったとされる業態。
実際、業界内では、2007年3月に1号店を出店した食べ放題がウリのチェーン「焼肉きんぐ」が、ファミリー層を中心に支持を集め、その後の16年間で国内300店舗を達成するという飛躍的な成長を遂げるなど、大きな成功を収めるチェーンも存在するのだが、その陰では今回のように、個人店を中心とした中小焼肉店は苦境が続いているという。
その原因に関しては、先の記事でも様々挙げられているところだが、特に大きかったとみられるのが、ウクライナでの戦争により牛の飼料となるトウモロコシが値上がりしたことに起因する食肉価格の高騰、いわゆる“ミートショック”の発生。
これにより焼肉店にとって欠かせないハラミやタンといった、国産和牛の内臓系の肉が特に高騰したといい、これが中小焼肉店にとっては大きな痛手となったよう。
さらに価格高騰もさることながら、良質な肉が購買力のある大手スーパーや海外に多く流れてしまい、中小焼肉店は卸売りから手頃な肉が手に入らないという状況に陥った……という話もあるようだ。
居酒屋やラーメンチェーンなどが異業種参入
いっぽうで、中小焼肉店に打撃を与えた一因とされる異業種の参入だが、具体的にはラーメンチェーン「幸楽苑」を運営する幸楽苑ホールディングスのよる、一人焼肉店「焼肉ライク」のフランチャイズ展開、さらに居酒屋大手の「ワタミ」が一部店舗を「焼肉の和民」に転換するなどの動きが目立つ。
なかでもワタミに関して言えば、近年だとこの「焼肉の和民」のみならず、唐揚げ店の「から揚げの天才」に、韓国風フライドチキン店の「bb.q OLIVE CHICKEN」など、人気の業態に乗っかっていくといったケースがよく見られるところだが、「から揚げの天才」に関しては、一時は大量出店を果たすも、ほどなく一転して閉店が相次ぐ事態に。
いわゆる“唐揚げブーム”の終焉を印象付ける事象としても注目された、「から揚げの天才」の閉店ラッシュだが、今回の件においてもワタミの参入が、さらなるレッドオーシャン化を招いたとも言えなくはなさそうで、“ワタミが参入するとその業態は危ない”との説が、この焼肉業界でも証明された……とも言えなくはなさそうである。
もっとも、上記で挙げられたミートショックや異業種参入のほかにも、最近では飲食店に限らず中小零細企業の間で、コロナ禍に実施された中小企業向けの実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済が本格化したことが原因で、資金繰りが行き詰まり、倒産が相次いでいるとも伝えられるところ。そういった要因からも、過去最悪ペースで推移しているという焼肉店の倒産数が、今後より増えることは大いに考えられる状況だ。
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