今回は「日本を低賃金国にしてきた自民党と経団連が、今度は賃上げすれば法人税減税という『泥棒に追い銭』政策の笑止千万!」というテーマでお届けしたいと思います。日本の労働環境を見渡した時、「賃金が低いのは日本人の労働生産性が低いからだ」という人が多くいます。しかし、これは本当でしょうか。日本は「おもてなし文化」で余計なサービスが多いから、労働生産性が低いのだ――などという人もいます。しかし、本当に本当でしょうか。これはただの数字のトリックにすぎないことに気づくべきです。(『 神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる! 神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる! 』)
※本記事は有料メルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図――政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』2024年3月11日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
投資コンサルタント&マネーアナリスト。富裕層向けに「海外投資懇話会」を主宰し、金融・為替・不動産投資情報を提供。著書に『眠れなくなるほど面白い 図解 経済の話』 『面白いほどよくわかる最新経済のしくみ』(日本文芸社)、『経済のカラクリ』 (祥伝社)、『見るだけでわかるピケティ超図解――21世紀の資本完全マスター』 (フォレスト出版)、『知らないとソンする! 価格と儲けのカラクリ』(高橋書店)など著書多数。
日本の労働生産性は低すぎる?
労働生産性は、おおむね次のような2つの計算式で導き出すのがふつうです。
・物的労働生産性=「生産物の量 ÷ 労働量」
・付加価値労働生産性=「付加価値額(売上 − 仕入れ)÷ 労働量」
ちなみにこうした計算式で導き出された日本の労働生産性は、2022年の公益財団法人・日本生産性本部のデータによると、1時間当たりの購買力平価換算の付加価値額が52.3ドル(年間85,329ドル)、OECD加盟国38カ国中30位に相当します。
日本の労働生産性は、非常に低い順位になっているのです。これはポルトガルやハンガリーといった旧ソ連のワルシャワ条約機構を結んでいた東欧7カ国などと同水準なのです。
ただし、2021年の「製造業」に限定した労働生産性は、もう少し高く94,155ドルで米国の約6割の水準でした(OECD加盟国の中では第18位)。
ちなみに、かつての日本の「製造業」に限定した労働生産性は、1985年以降の円高もあって、世界のトップクラスを2000年代の初頭まで続けていたこともあります。さすがに「モノづくり大国ニッポン」という時代も謳歌していたわけです。
たとえば、日本の製造業の労働生産性は1995年と2000年にOECD加盟38カ国中では第1位でした。しかし、05年に第7位、10年に第10位、15年に第14位、21年に第18位と次々に順位を落としていきます。また、この頃の日本の「一人当たりGDP」も常勝1位の小国ルクセンブルグに次ぐ2位(1988年と2000年)や3位レベルで推移していました。そして、日本人の賃金水準も同様につねに10位以内の上位ランクを維持していたのです。
さらに付言すれば、スイスに拠点をおくビジネススクールのIMD(国際経営開発研究所)が毎年発表する「世界競争力年鑑」の総合力で、日本は1989年から1992年の4年連続で、世界第1位でしたが、その後は30年以上凋落を続け、2023年版の最新の年鑑では過去最低の35位に落ち込んでいます。
これらのデータが何を意味するかといえば、1985年の「プラザ合意」以降に円高不況に見舞われてから、金融緩和に舵を取った日本はバブルを謳歌したものの、90年のバブル崩壊以降は坂道を転がるように「失われた30年の道」を歩んできたことが如実に窺える傾向だったのです。
とりわけ当初の「失われた20年」を経たのちの、2012年12月就任の故・安倍元首相以降のアベノミクスの円安政策によっては、さらに急速に日本の国力を衰退させたことが顕著な傾向となっています(ただし、輸出大企業の売上という業績は円換算では好調に推移)。
実際、「1人あたりGDP」は安倍政権の2013年以降から、世界で20位以下に落ち込んでしまい、ずっと横ばいを辿っています。
アベノミクスがいかに国力を衰退させる弊害をもたらしたかが鮮明なのです。円を安くして、大企業の見せかけの売上のみに貢献したのです。
故・安倍元首相は、アベノミクスの2019年までの7年間で雇用が499万人増えたと胸を張りました。
しかし増加の7割は、賃金下落をもたらすにすぎない非正規雇用労働者でした。