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日本を“低賃金国家”にしたのは誰か。さらに賃上げすれば減税という「泥棒に追い銭」の末期的政策まで実施へ=神樹兵輔

「賃下げ政策」と「デフレ」と「円安」の悪影響

ところで、そんな日本の労働生産性ですが、業種によっても大きな差があります。金融保険業や不動産業は高く、小売業やサービス業などの人手を多く必要とする業種は低いのです。

これは、考えてみれば当たり前でしょう。扱うモノの金額の大小を比べれば明白なのです。

デフレが30年近くも続く日本では、モノ自体の価格が安いのですから、賃金も横ばいで、労働生産性も低くなります。

また、企業規模別にみても、中小企業よりも大企業のほうが、労働生産性は高いのです。これも売上規模を考えれば合点がいくでしょう。

しかも、日本は法人数約400万社のうち、中小企業数が99.7%を占めます。大企業はたったの0.3%しかありません。総労働者数は約70%が中小企業で働く人で、大企業で働く人は約30%です。さらにこうした雇用労働者数の約6,000万人のうち、正規雇用は約6割にすぎません。

そして、賃金が低く有期雇用の非正規職(パート、アルバイト、契約社員、派遣社員、嘱託社員など)が約4割なのです。これは、雇用労働者の2.5人に1人が非正規雇用労働者ということになります。

時間給で働く人が増えるほどに、「楽してテキトーに過ごそう」という人も増えるのが当たり前です。忠誠心もはたらかないからです。

こうしたことが労働生産性を低める要因のひとつでもあるのです。

日本の「労働生産性」アップのための議論の不毛さ

ちなみに1989年(平成元年)の非正規は、雇用者の20%でしたから、この約35年ほどで、非正規雇用は40%と2倍になっているのです。賃金がその分圧縮されてきたのは明白でしょう。バブル崩壊以降、経済的苦境に陥った日本では、企業側が労働者の賃金を圧縮することに、どこもかしこも熱心に取り組んできたことが窺えるのです。

労働生産性を上げるためにはどうすればよいか――という議論もありますが、長時間労働の是正や、年功序列賃金の是正、機械化、ITなどのデジタルツールの活用、時間給ベースの賃金体系の是正……などなどが取り上げられています。

しかし、これらの議論は、教科書的対応策ですが、根本的な陳腐さも内包しています。

つまり、要は労働生産性の計算式の分母の人件費を減らせば生産性は上がるわけですから、逆に言えば、賃金がアップし、売上もアップすれば労働生産性も上がるのです。

また、日本は失業率が低いのですから、そのぶん労働生産性も低くなってくるのも当然なのです。

経団連の意を受けて自民党政権がすすめてきた「賃金下落政策」によって、日本の労働者の生産性が低くなるのは、ドル換算の購買力平価で比べれば、極端な円安もあるので当たり前の話だということになるのです。

勤勉で真面目な日本人労働者に何らかの責任や問題があるわけではないのです。

後述しますが、政治献金スポンサーの経団連の命令を受けた自民党の「賃金下落」政策によって、日本人の労働生産性は下がるべくして下がってきたのです。

なにしろ、中小企業では「人手不足」ですが、大企業では「人手余り」というのが現状です。

すでに、日本の労働分配率は大企業では40%以下の苛酷さですが、中小企業では限界値の70%前後もあり、中小企業の賃金引き上げは非常に難しい状況にあります(日本経済新聞2024年1月25日付)。

ちなみに労働分配率は、「人件費 ÷ 付加価値額」で導かれます。

つまり、日本の労働生産性は、実感でとらえても、世間で騒ぐほど低くはないのです。要するに賃金が低すぎるのです。

アベノミクスの円安政策で輸出大企業が儲けたのに比して、労働者に対しては非正規雇用を増やして人件費を抑え、2023年9月時点の資本金10億円以上の大企業の内部留保(利益剰余金)は、過去最高の528兆円にも積み上がらせたのが、日本の労働生産性の低さの元凶なのです。

これは、2012年末の第2次安倍政権発足時からの大企業の今日の内部留保額が1.64倍に増えたことでもはっきりしています。ちなみにこの間の賃金上昇率はたったの1.12倍です。ここ数年の物価上昇で、実質賃金が大幅に減少してきたというのも、しごく当たり前の話なのです。

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