北海道の空知地方中部に位置する奈井江町で、地元の猟友会が報酬などで折り合いが付かないことなどを理由に、町から要請を受けてもクマの駆除に参加しない方針を明らかにしたと報じられている。
報道によれば、奈井江町では去年市街地にクマが出たことを受け、先月猟友会に出没時の初動対応を担う「鳥獣被害対策実施隊」への参加を呼びかけたとのこと。
具体的には駆除要請に応じて出動し、罠を仕掛けたり捕殺するなどでクマを処分するというものだということだが、提示された日当は8,500円。発砲した際の加算があっても最大で1万300円だったという。
他の自治体の報酬を見てみると、例えば幌加内町では1日1万5,000円。また札幌市ではクマ出没を受けた出動1回で2万5,300円、捕獲・運搬した場合は3万6,300円が支払われるということで、それらと比べてもかなり低い水準ということで、地元猟友会は町に日当を増やすよう求めたものの、予算がないとの理由で交渉はまとまらず。そのため猟友会側は「この報酬ではやってられない」「ハンターを馬鹿にしている」と、不参加方針に至ったというのだ。
ヒグマの推定数は30年前の2.3倍に
全国的に増えているクマの出没やそれに伴う被害。札幌市においては、2023年度のクマ出没件数(23年12月25日時点)で227件と、過去10年で最多の数になったといい、しかも人やクルマなどを恐れない、人慣れしたクマが増えている傾向だという。
さらに、先日札幌市内で行われた専門家による検討会では、北海道内に生息するヒグマの推定数が、30年前と比べて2.3倍に増えていることが報告されたとのこと。もはや絶滅が危惧される水準にはないということで、今後は捕獲の強化に乗り出すことが確認されたということである。
そういった状況となれば、今後さらに出動する機会が増えそうなのが、クマの駆除を一手に担っている各地の猟友会なのだが、今回のように報酬を巡って揉めるケースは過去にもあったよう。
例えば2018年には、ヒグマの出没や被害が相次いでいた道内の島牧村において、ハンターへの報奨金が村の当初予算をはるかに超えてしまい、1,156万円の補正予算案が提出されたものの、村議会では「高額すぎる」との反対意見が続出し、予算案は否決に。それにより、ハンターが出動しない事態が1年半も続いたというのだ。
そもそもハンターらを巡る金銭面での問題といえば、上記のような出動経費や成功報酬を支給している市町村は、実のところ一部にとどまるといい、社会に貢献したいというハンターの善意に、すっかり頼り切っている自治体が多いというのが実情だということ。
実際今回の奈井江町でも、昨年ゴルフ場でのクマ出没を受けて出動した際は、100%ボランティア、無償での活動だったという。
そのような状況を受けて北海道議会では2023年に、道として初めてハンターへの支援策を盛り込んだ補正予算案が提出。具体的にはハンターの出動経費や報奨金にくわえ弾薬などの必要な資材、さらにハンター育成など、市町村が行う支援策を補助する費用として、合計1,500万円を計上したとのことだが、今回のようにハンターらが満足するような条件を提示できない自治体が依然として多い状況のようなのだ。
「もう警察がハンター兼任しろ」との声も
SNS上では、今回奈井江町が猟友会に提示したとされる“日当8,500円”という報酬額に関して、「スズメバチの巣の駆除でさえ数万円が相場なのに…」「クマに返り討ちにあうリスクもあるのにこれじゃ引き受ける人はいませんよ」などと、あまりにも安すぎるのではとの声が噴出しているところ。
スズメバチの巣の駆除でさえ数万円が相場なのに…熊で8500円はない
民間に頼るのやめて公務にした方がいいんじゃないか https://t.co/5L6F095eIo
— きりと@精神科医 (@MvY4ph7LgfozzCl) May 22, 2024
自衛官もそうだが、命を懸けて誰かを守る仕事をバカにしていますね。この報酬ではやってられないのは当然のこと。クマに返り討ちにあうリスクもあるのにこれじゃ引き受ける人はいませんよ。銃や弾薬を購入する予算にすらならない。猟師・猟友会は減る一方でしょうね。 https://t.co/ZYtHo5ps44
— 小笠原理恵 (@RieOgaWEB) May 22, 2024
そりゃ怒るわな。日当8500円は安すぎだろ。
危険だって伴う作業なのに。猟友会がクマの駆除辞退 「この報酬ではやってられない」「ハンターを馬鹿にしている」北海道奈井江町(HTB北海道ニュース)#Yahooニュースhttps://t.co/0MWRyUScjD
— 菅野完 (@noiehoie) May 22, 2024
さらに、そんなハンター側が負うリスクということで言えば、ヒグマ駆除において多用されていたという「ハーフライフル」が、今年3月に閣議決定された銃刀法の改正案によって、規制強化されてしまったことへの批判も、今回の件に関連して多くあがっているようだ。
ハーフライフルは散弾銃よりも射程が長く、クマとの距離をある程度保ったうえで使用できるうえ、さらには狩猟免許の取得後すぐに所持できることから、特に若手ハンターの間で愛用されていた。しかし、先述の銃刀法の改正によって、既存のライフル銃と同様に、原則として“10年以上続けて猟銃の所持を許可された者にしか所持が許されない”という規制がかかることに。
なんでも23年5月に長野県で発生した、警察官2人を含む4人が殺害された事件で、このハーフライフルが用いられたことも、大きく作用したのではとの憶測も広がっているこの規制強化。
もっとも北海道の猟友会などからは、害獣駆除の担い手不足に繋がるなどと反対意見が噴出し、それを受けて特例の下では若手ハンターの所持を認めることにはなったようだが、害獣駆除の必要性が今までになく高まっているタイミングでのこの規制強化には、かねてから疑問の声が多いようで、そのため今回の騒動を受け、一部からは「もう警察がハンター兼任するしかない」といった声があがっているというのだ。
日当もそうだけど、警察による無意味なハーフライフル規制が痛過ぎる
もう、警察がハンター兼任するしかないよ— 野菜️⛄️ (@trukadmiral) May 21, 2024
警察庁が警察官に熊を撃たせるための文書出して道警に部隊編成やらせたらええがな。ハーフライフル規制の前にやることがあるでしょう
— 警備業論考 (@keibigyo_ronko) May 22, 2024
ハーフライフル禁止になったし、警察にやらせればいいんじゃないですかね。
警察はハンターと違って2階級特進があるからええやろ。
— ふがふが (@kurokakka999) May 21, 2024
クマの駆除に関しては、動物愛護の観点から反対の立場の声も多く、猟友会に対しても批判や苦情が集中することも度々。それでいて自らを守るアイテムという側面を持つ銃も、この通り規制が強化されるなど、ぶっちゃけ“やってられない”といった状況にもかかわらず、それでもクマなどの獣害を少しでも減らすため、身体を張って奮闘しているハンターも多いということで、せめて金銭的には彼らが納得するだけのものが渡るよう願うばかりといったところだ。
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