6月から減税が始まることを政府はしきりに宣伝しています。そして給与明細などに減税分が明記されるよう、企業の経理担当など関係者に指示しています。しかし、この減税の陰に隠れて、すでに様々な家計負担が始まっています。これらについては説明も、給与年金明細に一切明記されません。負担増は「こっそり」、減税の恩恵は「明記」させる政治の姑息さが示されました。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年6月7日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
負担増は「こっそり」、減税の恩恵は「明記」させる姑息さ
6月から減税が始まることを政府はしきりに宣伝しています。そして給与明細などに減税分が明記されるよう、企業の経理担当など関係者に指示しています。
現場はこの事務負担に悲鳴を上げる一方、年金生活者など2か月に1度の年金で支払う税金が少ない人は、最後まで減税で税が減額されるのか、確認するのも容易ではありません。
同じ減税でもありがたみ半減、負担倍増のやり方に問題の指摘がなされますが、この減税の陰に隠れて、すでに様々な家計負担が始まっています。
これらについては説明も、給与年金明細に一切明記されません。負担増は「こっそり」、減税の恩恵は「明記」させる政治の姑息さが示されました。
減税は完結するのか不安
そもそも今回の「特別減税」、政治的には最低のやり方となりました。
1人当たり住民税含めて4万円、夫婦子供2人なら1世帯で16万円の減税となり、公費を4兆円あまり使うのですが、評価はさっぱりで、むしろ反感を強めています。政治的には大失敗です。
減税には税率を引き下げる「定率減税」で将来持続的に減税をする形のものと、今回のような1回限りの「特別減税」の2つがあります。経済学の「恒常所得仮説」に則ってみれば、前者は消費に回る分が多く、景気刺激的な効果が期待されます。後者は1回限りの政策対応になるので、一般的には貯蓄に回る分が大きくなり、景気刺激効果は小さくなります。
それでも、昨今のように物価高が続いて貯蓄が大きく目減りし、将来不安を高めている状況では、特別減税で貯蓄の補填ができれば、それも効用となり、不安軽減をもたらせば意味がないわけではありません。
ところが今回のやり方では、このいずれの効果も減じる面があります。
1回にまとまった金が1人4万円分入れば、旅行を計画したり、食事に使ったりするあても出てきます。しかし、毎月の所得や年金で支払う税金がこれによって軽減される形となるため、比較的賃金水準の高い人は、6月の給与と夏のボーナスで税が軽減され、短期間に「減税」が確認できます。
しかし、収入が少なく、ボーナスも限られる人や年金生活者は、1回の収入で税金を引かれる分が少ないために、家族分の「減税」が完結するまでどれだけ時間がかかるかわかりません。家族の分も減税されたのか確認することも容易ではありません。
知らないうちに減税され、減税が終わっていれば、政治効果は期待できません。まして手続きが煩雑な分、家族全員分が完結しなければ不満のもとになります。
そもそも「特別減税」と言いますが、勤労者の払った税金分は減税ですが、配偶者や扶養家族の分も1人4万円返すといっても、配偶者や扶養家族自体は所得を得ているわけではなく、所得税を払っていません。
つまり、税金を払っていない人の分の「減税」というのは本質的におかしく、給付金となります。今回の「特別減税」、制度的に矛盾を秘めています。
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