9月27日に予定される自民党総裁選挙を前に、多くの議員が立候補を表明し、政策の指針を示しています。しかし、注目すべきは、岸田総理が推し進めてきた「デフレからの完全脱却」という政策の再考が必要であるという声です。国民は今、物価高騰に苦しんでおり、この状況でのデフレ対策はむしろ逆効果となりかねません。岸田総理の退陣表明を受け、新政権は個人と市場のバランスをどのように取るのか、日本経済の行方に注目が集まります。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年8月25日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
「デフレからの完全脱却」を目指す政策は有害無益
9月27日の自民党総裁選挙に向けて多くの議員が立候補を表明、政策の指針を示すといいます。そこでは改めて国民目線の政治に戻ることを期待したいと思います。
その第一に期待したいのは、24年度の「骨太方針」を見直すことです。特にその冒頭で「デフレからの完全脱却を目指す」としている点です。
今の日本に「デフレからの完全脱却」するための対策は有害無益です。国民はデフレではなく、物価高に苦しんでいて、物価が上がり続けることを誰も望んでいません。
「賃金物価の好循環」を提示して国民の目を物価高からそらそうとしていますが、賃上げをしてもその分、物価が上がれば生活は楽にならないことは自明です。
なぜ今、デフレからの完全脱却を目指すのか
そもそもデフレからの完全脱却とはどういうことなのか。
内閣府の定義によると、「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」としています。
常識あるエコノミストに聞けば、今日の日本で持続的に物価が下落しているのか、その状況になる見込みがあるのか質せば、よほどのへそ曲がりでなければそれはあり得ないと見ます。つまり、今日の日本はデフレでもなければ、デフレに陥るリスクもほとんどありません。むしろ国民にとってインフレ(物価が持続的に上昇する状態)こそが最大の問題です。
こうした状況を無視して、「骨太方針」で冒頭に「デフレからの完全脱却を目指す」としているのは、冗談か、何か国民には言えない特別な狙いがあるとしか思えません。
その点、デフレ脱却を掲げて行っていることを見れば、その狙いが透けて見えます。「骨太」を公表する直前に岸田総理は日銀の植田総裁と会談。そこで岸田総理は植田総裁に「利上げは困る」と伝えたといいます。政府としては日銀に大規模緩和を続けさせたく、その方便として「デフレ脱却」を使っています。
実際にはもう2年以上前から政府日銀の掲げる2%の物価目標を超える物価上昇が続いていて、異次元緩和を続ける必要性はないのですが、政府はインフレを認めず、日銀も「まだ基調としての2%インフレには到達していない」とうそぶきました。
つまり、政府には日銀が緩和を続けることで得られるメリットがあることになります。それは何か。
直接的には金利が低いままで、財政当局は金利コストを抑えられます。また国債を大量発行しても、日銀が毎月6兆円をめどに購入してくれるので、国債の買い手に苦労しませんでした(今後は買い入れ額を漸減します)。
間接的にはインフレでも低金利を続ける日本から資本が海外に流出し、円安になります。これは日本の資金を導入したい米国は歓迎します。新NISAもブラック・ロックなどが日本マネーを米国に引き込むことを狙って日本政府に働きかけ、岸田総理がこれに答えました。実際、これで15兆円もの日本マネーが米国株式市場に流入しました。