英国民投票を控えてのソロス現場復帰報道は再度ポンド売りを仕掛けるとの思惑を誘い、数日でポンドは2.4%近く下落した。だが直近のポンドは今年最高値水準まで戻している。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』近藤駿介)
プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。
それが幻想でしかないことを、ジョージ・ソロス自身は知っている
ターニング・ポイント
EU離脱の是非を問う英国の国民投票がいよいよ23日に迫り、市場の緊張感も高まってきている。
世論調査では「残留派」が盛り返しているもののまだ拮抗した状況であるが、ブックメーカーのオッズでは75%が「残留」であるうえ、「過去24時間の賭けの約95%が残留を見込むものだった」(21日付Bloomberg)と、賭けの対象としては「残留」に大きく偏っており、大勢は決したといえる状況に近づいている。
それにも関わらず、金融市場では「離脱」に対する警戒と期待感が強く残っている。
これは25%という「離脱」確率が、投資の分野では決して小さくないことに加え、国民投票に向けて様々なノイズが入ったことも影響している。
そのノイズをもたらしたのは、御年85歳で現場復帰と報じられたジョージ・ソロス氏とジョー・コックス下院議員の殺害事件である。
言わずと知れたジョージ・ソロスはポンド売りを仕掛け「イングランド銀行を打ち負かした男」として名を馳せている伝説のトレーダーである。
国民投票を控えた段階でのジョージ・ソロスの現場復帰報道は、再度ポンド売りを仕掛けるという思惑を誘い、数日でポンドは2.4%近く下落した。それは、「イングランド銀行を打ち負かした男」というキャッチコピーが、投資家に1992年当時と現在の状況の違いを考えさせないほど強烈なものだったからだ。
1992年と2016年の違い
しかし、ジョージ・ソロスが「イングランド銀行を打ち負かした」のは、まだ英国を含めて欧州が共通通貨ユーロに向けて準備段階にあり、管理相場に近い時代であった。そこに生じた建前と本音のギャップをジョージ・ソロスは標的にしたのである。
これに対して、今の英国はジョージ・ソロスの功績によりユーロには参加しないで済んだうえ、完全変動相場制を採用しており、建前と本音の間に大きなギャップは生じていない。
また、「イングランド銀行を打ち負かした男」の再登場に対して世界の中央銀行は敏感に反応し、英国のEU離脱を受けた市場の混乱に対しては「ドル緊急供給」を行うという協調体制を敷き、ポンド売りに対する防御態勢を整えた。
1992年に「イングランド銀行を打ち負かした男」自身は、こうした違いを十分に認識して行動しているはずである。
「イングランド銀行を打ち負かした男」の再登場は、こうした1992年当時との状況の違いを認識していない投資家を盲目的な「ポンド売り」に走らせたといえる。
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