人間だけが発展させてきた「合理的思考システム」に潜む罠
こうした点は、行動ファイナンスの大家であるダニエル・カーネマンのファスト・システム、スロー・システムという概念が非常にうまく説明していると思います。
ファスト・システムは、モノゴトを一定のパターンに当てはめて、瞬間的に結論を下す思考システムです。第一印象や好き嫌いで判断するのがまさにこれですね。
このファスト・システムは、人間だけでなく、それ以外の動物の意思決定システムと基本的に共通するものと考えられます。
ヒトがチンパンジーとの共通祖先から枝分かれしたのはわずか700万年前であり、ちょっと変わったチンパンジーから本当の意味でのヒトになったのは、せいぜい200~250万年前くらいだと思われます。
ファスト・システムは、それまでの長い進化の過程で培われてきた意思決定システムであり、“厳密には正しくなくても、結果的に生き残りの可能性を高めてくれる瞬間的な判断力”といえます。
これは、もちろんとても大切な能力です。この能力があったから、我々や現存するそれ以外の動物の祖先たちは生き延びてこられたわけですから。でもその一方で、ファスト・システムは思い込みや偏見を生み出す源ともなります。
一方のスロー・システムは、おそらく人間だけが発展させてきた合理的思考システムです。ファスト・システムと比べると、とても歴史が浅く、つい最近になって身に着けたばかりの能力といえます。
そして、「スロー」と名付けられている通り、このシステムは稼働するのに時間がかかり、その分多大なエネルギーも必要とするのです。
だから多くの場合、人は省エネ走行をするために、意思決定の大半をファスト・システムに頼り、スロー・システムはそれを正当化する(あるいはつじつま合わせをする)ためにだけ使われます。要するに、「人は言い訳をするサル」ということですね。
ただし、ときに知的好奇心に駆り立てられ、多大なエネルギーと時間を投じてスロー・システムをフル稼働させる場合には、人間は合理的な思考力を全面的に発揮して偉大な知的業績を残すことになります。
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