記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年7月26日号より
※本記事の本文見出しはMONEY VOICE編集部によるものです
「負債は成長の源泉」「貯蓄は経済縮小の源泉」となる理由を解説
今、「事業規模」20兆円の経済対策が、新聞紙上で大きく報道されています。
これはもちろん、デフレ「完全」脱却のためには、「一年間」で20兆円規模の内需拡大が必要だからです。
しかし――純粋な国費分、すなわちいわゆる「真水」がたった「5兆円」程度しかないのではないかという見通しに基づいて、「見かけ優先」にしか過ぎない「張りぼて」の対策だ、という「批判」的な記事も報道されています。
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/824239381010340
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/823383844429227
もしもこの対策が、本当に「見かけ倒し」の「張りぼて」のものに過ぎないのなら、デフレ脱却は不能となり、これまで総理が強調してきた、デフレからの「脱出速度を最大限上げる」という国民への説明と「実態」が乖離してしまう格好となってしまいます。
繰り返しますが、デフレ脱却のためには少なくとも2~3年の間は「デフレギャップ」を内需拡大策によってしっかりと埋めることが必要です。
ただし――その財出額の根拠となる「デフレギャップ」の測定方法については、多様な考え方があり、論争となってしまうこともしばしば。
例えば、日銀や内閣府は現在、GDPの1~2%程度のデフレギャップしかない、と推計しており、財出規模はその程度でもいいのではないか、という論調がしばしば主張されています。
しかし、日銀や内閣府の推計は「過小評価」されたものであることは、これまで繰り返し指摘されてきた通りです。
http://net.keizaikai.co.jp/archives/874
とはいえ、「どの程度過小評価しているのか」を正確に測定することは困難であることもまた、事実です。
そんな中、「潜在的な供給力を測定する」という代わりに、日銀統計で明確に測定できる「日本経済全体の官民あわせた総資金需要」(以下、ネットの資金需要)を測定する、という方法が主張されることもしばしばあります。
http://news.finance.yahoo.co.jp/detail/20160609-00000007-zuuonline-bus_all
そもそも「資金需要」は、理論的にはデフレギャップに一致するもの。
なぜなら、デフレギャップ(需要不足)があれば、その分だけ各企業は支出を減らし、結果、資金需要(おカネを使おうとする需要)が縮小する一方、デフレギャップが完全に消滅すれば(全ての財やサービスが順調に市場で裁けるため)、資金需要の縮小は止まることになるから――です。
したがって、このネットの資金需要は、理論的にデフレギャップの「代理変数」と見なすことができます。
しかも、なんと言っても、この指標には、
「大きな誤差を含み売る潜在供給力の「推計」作業を行う必要なく、官民の資産状況から(より少ない誤差で)直接「測定」できる。」
という大きなメリット(!)があります。
これはつまり、より正確に「必要な財出額」を測定することが可能となる、ということを意味しています(なお、在庫調整等のためのタイムラグは存在しますが、現在の内閣府や日銀のデフレギャップ値の様な「推定」が含まれていない分、より高い信頼性での測定が期待できます)。
さて、この変数を確認しますと、下図の様に、最新データでGDP比で3%程度、つまり金額にして15兆円程度の資金需要が不足し、「過剰貯蓄」が起こっている様子が確認できます。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=825161460918132&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=3&theater
これこそ、経済成長のためには、この15兆円を上回る、最低でも20兆円規模の景気刺激策が必要な実証的根拠なのです。
とはいえ、以上の説明だけでは、なかなか理解しづらい方も多かろうと思います。ついては今回は、このグラフが意味する所を詳しく解説いたしたいと思います。