東芝再生のために本当に必要なこと
このように考えると、東芝の再生に必要なのは、生き残りを目的とした「カネづくり」のために「モノづくり」の事業を売却することではなく、「目先の利益でなく長期的な利益を上げる」ことを重視する企業風土を取り戻すことだといえる。
しかし、残念ながら、収益の柱である半導体事業を売却して必要な「カネづくり」に成功し、米原子力子会社WHがチャプター11の適用を受けたとしても、現実問題として東芝を原子力事業のリスクから完全に切り離すことは難しい。
したがって、原子力事業から切り離せば十分にやっていける可能性がある半導体事業を、どのようにして成長させていくかに集中して対策を考えるべきである。
そこで考慮すべきことは、「目先の利益でなく長期的な利益を上げることの重視」を可能とする環境を整えることである。そのためには経営者に対して「短期的な利益」を求める投資家はできるかぎり排除する必要がある。
GPIFは今こそ東芝に「投資」せよ
東芝が監査法人のお墨付きを得ていない異例の決算発表に踏み切った4月11日、公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用特別行政法人)はインフラ、不動産、プライベート・エクイティ(未公開株)の3分野で投資判断を担う運用機関の公募を始めた。
GPIFは、資産の5%(2016年末時点では約7.2兆円)の範囲内で、オルタナティブ資産(代替資産)に投資する計画を持っている。
GPIFは短期的な損益に一喜一憂しないという方針で運用されており、「目先の利益でなく長期的な利益を上げる」環境を整えるのには適した資金である。
東芝の半導体事業には、シャープを傘下に収めた鴻海精密工業が3兆円の買収金額を用意していることが報じられている。しかし、政府内部には「技術流出の観点からアジア勢への売却は厳しい」という見方もあるうえ、東芝と合弁会社を持つなど提携関係にある米ウェスタンデジタルも、中韓台勢などのライバル企業に東芝の半導体事業を売却することに反対を表明している。
つまり、GPIFが買収資金を提供する意思を示せば、日本連合で買収することは十分可能な状況になっている。
単に海外企業を買収したり、年金資金を使って株価を上昇させたりしようとするのではなく、日本企業が生み出した得意の「モノづくり」を、日本の長期資金を使って、日本企業の強みである「目先の利益でなく長期的な利益を上げる」経営方針で成長させていくことこそ、今の日本が考えるべき「成長戦略」ではないだろうか。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2017年4月13日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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