波乱要因は日銀、最も影響を受けるのは日本人投資家
世界の金融市場は「出口に向かう欧米」と「出口論すら拒否する日銀」という構図になっている。こうした環境下で誘発されるのは、円を「調達通貨」とした「円キャリートレード」である。
キャリートレードにおける「調達通貨」に必要なのは、金利が上がらないことと通貨高にならないことである。
もし、黒田総裁の任期問題とともに異次元の金融緩和の「出口論」が湧き上がり、日銀も「出口」に向かって歩を進めることになれば、「円キャリートレード」の必要条件が失われることになる。
すでに利上げを実施しているFRBや、近い将来の利上げが視野に入ってきているECBと比較すれば、日本で始まるであろう「出口論」は、いつ量的緩和の規模拡大を止めるかという段階であり、その格差は依然として大きく、そのこと自体がすぐに市場に混乱をもたらすとは限らない。
しかし、「出口に向かう欧米」と「出口論すら拒否する日銀」という構図が崩れていくことで、投資資金の流れに影響が及ぶ可能性は高いと考えておくべきだろう。こうした金融市場の構図を崩す要因を作るのは日銀であり、こうした構図の変化が金融市場に影響を及ぼすとしたら、それは日本にとってネガティブなものである可能性が高いからである。
ゴルディロックス(適温)相場の終わり
FRBの次期議長がパウエル理事に決まった今、日銀総裁人事に対する注目度は自然と高まっていくことになる。そうした状況で異次元の金融緩和に対する議論が活発になっていくと考えると、2018年も日銀が「消え続ける」ことはできない。場合によっては、日銀が金融市場の撹乱要因として金融市場に「再登場」することになるかもしれない。
税制改革法案を成立させ、「減税」と「利上げ」というアメとムチ政策で2018年も持続的経済成長を目指すトランプ政権に対し、「増税」と「異次元の金融緩和の出口」という2本のムチを振るって持続的経済成長を目指すことになりそうな安倍政権。
日本と欧米の間で政策的乖離が広がる気配が出てきている中、日本の投資家は2017年に堪能した「ゴルディロックス(適温)相場」に2018年も浸り続けられるのだろうか。
ビットコイン市場において円建て取引が4割前後に達していることや、異次元の金融緩和に関する議論を先送りできない状況に日銀が追い込まれたことを考え合わせると、日本人投資家が「ゴルディロックス相場」に浸り続けられる時間はそれほど長くはないかもしれない。
「もはや2017年ではない」
世界の中でこのことを最も強く意識しなければならないのは、日本人投資家だと言えそうだ。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2018年1月4日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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