量的緩和によるインフレ誘導を主導してきた浜田宏一内閣官房参与(米イェール大学名誉教授)は、ここにきて宗旨替えをして、最近は「シムズ理論」にご執心のようです。しかしこの理論は危険なにおいがします。(『一緒に歩もう!小富豪への道』田中徹郎)
プロフィール:田中徹郎(たなか てつろう)
(株)銀座なみきFP事務所代表、ファイナンシャルプランナー、認定テクニカルアナリスト。1961年神戸生まれ。神戸大学経営学部卒業後、三洋電機入社。本社財務部勤務を経て、1990年ソニー入社。主にマーケティング畑を歩む。2004年に同社退社後、ソニー生命を経て独立。
また「間違っていました」では済まない、シムズ理論の問題点とは?
内閣官房参与・浜田宏一さんがご執心の「シムズ理論」
恵比寿顔で経済を語る好々爺。安倍さんが総理になってから、量的緩和政策の理論的な支柱であり続けてきた浜田宏一さん(注)のことです。
注:内閣官房参与の浜田宏一氏。アメリカの米イェール大学で名誉教授。量的緩和によるインフレ誘導を主導
浜田さんは、4年間にわたる量的緩和にもかかわらず物価が上がらない現実を見て宗旨替えしたようで、最近はシムズさん(注)の「シムズ理論」にご執心なようです。
注:クリストファー・シムズ、ノーベル賞経済学者でアメリカプリンストン大学教授、「物価水準の財政理論」の著者
なんでも「今のような超低金利下では、量的緩和によって物価を上げることはできない」のだそうで、この「シムズ理論」に浜田さんも目からうろこが落ちたのだそうです。
でもこのロジック、なんだかヘンではないでしょうか?
そもそも物価が低すぎるから低金利誘導を行ってきたわけで、低金利誘導と量的緩和はセットで考えられてきたはずです。低金利下で量的緩和が効かないというなら、「ハナから量的緩和など意味が無かった」と言い換えるべきではないでしょうか。
さらに危険なにおいがするのは、この「シムズ理論」です。
実践できるとは思えない「シムズ理論」
ここでもう少しシムズ理論を見ておきますと、概ね以下が骨子だそうです。
- 今のように超低金利下では金融政策(即ち量的緩和)は効かない
- デフレ脱却には政府が(野放図に)財政を拡大すればいい
- その結果貨幣に対する信頼性が低下→インフレが起きる
- インフレの結果、政府の借金の実質価値は下がる
つまりインフレによって国の借金の価値を下げるという理論で、この考えはインフレ税につながります。
この考えを突き詰めれば、「国民の貨幣に対する信認を低下させるが、その信認低下をちょうど良い加減なところで止める」ということで、「ちょうど良い加減」なところで止まらなければ、それこそハイパーインフレと超円安で奈落の底です。
はたしてちょうどいい湯加減にインフレを誘導することなどできるのでしょうか…人ごとだと思って無責任なことを言ってもらっちゃあ困ります。我先に貨幣から逃げようとする人間の集団心理を、ちょうど良い加減なところでとどめることなど、できるとは到底思えません。
それでなくても、政治家には常に財政拡大への誘惑があります。仮に政治家や評論家が「シムズ」理論を持ちだし、政府が野放図に財政を拡大すればいったいどうなるでしょう。特に浜田さんのように責任ある立場の方は、過去の歴史をよく勉強し、発言には十分に注意して頂きたいものです。また「間違っていました」では、取り返しのつかないことになってしまいます。
時間はかかりますが、構造改革によって生産性を上げるほかに選択肢はないのだ、と私は思います。
『一緒に歩もう!小富豪への道』(2017年3月13日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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