日米ともに奨学金の債務負担が問題となっており、自己破産に至るケースも増えている。そんななか、奨学ローンを帳消しにすると経済が拡大するという試算が出た。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)
※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』2018年2月12日, 2月15日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
返済のために高収入の職を求めて失敗…。それは社会全体の損失に
重くのしかかる「奨学ローン」
米国では、以前から「奨学ローン」に圧し潰される若者の多さが問題となっている。若者とは言ったが、実のところ40歳代に入っても「奨学ローン」をコアとした重債務に苦しむ人が多いとされている。
債務の大きさ故に、自分の好みや適正に合わない高収入の職を求めるため、選択肢の幅が狭まり、なかなか職に就けない。また、職に就けても長続きしないケースが増えている。
奨学ローンを帳消しにすると経済が伸びる
それでは本人だけでなく、社会全体としての損失も大きい。それで、いっそ「奨学ローン」を帳消しにした方が、米経済には大きな恩恵となるという試算が出た。
米国4400万人が抱える(奨学)ローンの残高1.4兆ドルを帳消しにすれば、GDPは帳消し後10年間、毎年平均で860億ドルから1080億ドル増加すると、バード大学レヴィ経済研究所が試算した。
経済成長を妨げる「貧富格差」
私は貧富格差の拡大が、健全な経済成長の妨げになっていると見なしている。
「奨学ローン」の帳消しは、貧富格差の縮小につながる点でも、経済成長にプラスだ。どういうことか?
経済政策には、成長を促す緩和的政策と、成長スピードを抑制する引き締め的政策とがある。自動車に例えれば、アクセルとエンジンブレーキの政策だ。経済成長を完全に止めるわけではないので、ブレーキではない。
アクセルとは、エンジンに多くの燃料を送り込むこと。エンジンブレーキとは、燃料を抑制することだ。経済の燃料とは「資金」。経済成長のエンジンは「大衆」だ。この場合、より多くの人々に、より大きな資金を提供することが、より大きな成長につながると考えられている。
貧富格差の拡大とは、99%の大衆から1%の富豪に資金が移動し続けることだ。1人1人の生活実需には大差がないとすれば、1%が99%から資金を吸い上げてしまうと、「大衆」から経済成長の燃料が抑制されることになる。
奨学ローンの場合では、ローン提供者が1万社あったとしても、4400万人から吸い上げた状態では、経済成長の妨げとなっている。
もっとも、ローンを提供した時点では、のべ4400万人をはるかに超える人々に資金が提供されたので、その資金が学校関係や関連産業に流れたことで、経済成長に貢献したはずだ。それでも、「奨学ローン」の残高を帳消しにすれば、さらなる経済的な効果が見込めるとされる。
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