小幅だった今年の春闘ベア
もう1つ、失望を買ったのは春闘の結果です。
政府が財界に「3%ベア」を強く要請し、実現した企業には税制面で優遇する、という「アメ」をぶら下げていました。ところがふたを開けてみると、今年の春闘賃上げ率は、昨年を0.1%から0.3%程度上回るものの、依然として低い賃上げに留まりました。180万人の組合員を抱える連合の調査では、定昇込みで2.1%台でした。
これを厚生労働省の「毎月勤労統計」でいう「所定内給与」に読み替えると、名目で0.3%からせいぜい0.5%程度の上昇になると見られます。
この程度の名目賃金の上昇ですと、物価上昇によってすぐに実質マイナスとなる面があり、少なくとも企業にとって製品価格に転嫁しなければならないほどの賃金コストの上昇とはなりません。
それでも輸送コストの上昇から、業務用ビールなど、4月に入ってからも値上げをする商品が見られますが、物価上昇がそのまま消費者の購買力を削ぎ、需要を減らすことになるので、価格の引き上げは広がりません。
一部スーパーのように、値下げ戦略で顧客を確保しようとするところも少なくありません。低賃金が物価を抑制している面があります。
「AIシフト」が賃上げを抑制
もう1つ、人手不足への企業の対応が進んで、賃上げ圧力を緩和していることです。
これまで対応が遅れていたスーパーでも、レジの機械化・無人化が進み、人員削減が可能になっています。そこへ最近ではAI(人工知能)が人の労働に取って代わる動きが広がりつつあります。
イベント会場の案内や、介護施設でのロボット化が見られますが、これまで人間の判断力が必要と見られていた分野でも、コンピューター化・AI化が見られるようになりました。
例えば、金融業界では、証券会社のトレーダーに代わって、コンピューター・トレーディングの取引シェアが大きくなっています。米国ではさらにこれが進んでいます。
そして銀行の「判断」業務にもAIが取り入れられるようになりました。某メガバンクでは、融資をAIが行うようになると言います。
融資では財務諸表など数字で判断できるものばかりでなく、経営者の素養、考え方など定量化しにくい分野が多く、機械対応は住宅ローン、消費者ローンなどを除けば難しいと見られていました。その壁を乗り越える動きが出てきたことになります。
また訪日外国人が増え、言葉の問題が増えてきましたが、これも最近ではハンティな翻訳機が普及してきました。東京オリンピックに向けてさらに外国人が増えると見られますが、ボランティアの問題、それも通訳のできる人を探すのは容易でありませんが、翻訳機やAIが使えるようになると、人的問題はかなりクリアできます。
こうした機械化、ロボット化、AI導入は、企業の生産性を上げる一方で、省力化にも寄与し、名目上の人件費の抑制のみならず、生産性上昇によって単位労働コストも低下が見込まれます。
そうなると、ますます物価の引き上げは必要なくなり、2%の物価目標の達成も困難になります。