日銀は27日に行われた政策決定会合で、2%物価上昇の目標達成時期について、従来「2019年度頃」としてきた文言を削除しました。その背景について考えます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年4月25日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
6度の延期を経て、ついに見通しを削除へ。もう達成は無理なのか
日銀会合前から「下振れリスク」提示
日銀の黒田総裁は4月23日、米CNBCのインタビューに答え、現在の日本のインフレ率はコアで1%、コアコアで0.5%と、2%の物価目標にはまだかなり遠いと言い、大規模な金融緩和を続ける考えを示しました。
物価目標達成時期についても、「予想では2019年度中と見ていますが、下振れリスクの方が大きいというメンバーもいる」と、あえて下振れリスクを提示した点が注目されます(編注:原稿執筆時点4月25日。27日に行われた日銀会合では、これまで2019年度頃としてきた物価上昇2%の目標達成時期を、先延ばしではなく削除しています)。
さらにトランプ政策を意識して、保護貿易主義や内向きな政策は、世界経済に打撃が大きく、危険な面があるともけん制しました。これで市場にはインフレ目標の達成は容易でなく、その分大規模緩和が続くとの印象を与え、為替市場ではドル円が一気に108円台後半まで大幅な円安ドル高に動きました。
先月には2019年中の物価目標達成を確信し、そこでは出口策が検討されているはず、と発言した黒田総裁がまた弱気に転じたことになります。
確かにこの間、物価目標達成に逆風となる要素が出てきました。総裁でなくとも、2019年度中の物価目標達成はかなり難しくなったと見られます。
期待を砕いた3月の物価統計
まずは4月19日に公表された3月の全国消費者物価の内容が、物価上昇の勢いを削ぐものとなっていて、日銀も失望を禁じえなかったと思います。
生鮮食品の価格高騰が収まり、それだけ全体の上昇率が低下したこと自体は問題ではありません。はなから日銀の「メガネ」には入っていません。問題は「コア」並びに「コアコア」が減速したことです。
なかでもショックだったのは生鮮品とエネルギーを除いた「コアコア」が季節調整後で前月比0.1%下落し、前年比が0.5%の上昇に留まったことです。
2月までの半年では年率1%前後まで上昇ペースが加速してきたのが、ここで途絶え、直近半年の限界的な上昇ペースはまた年率0.6%に落ちてしまいました。
コアに含まれるエネルギー価格は、2月まではコアの数字を0.5%ほど押し上げていましたが3月は0.4%に低下、これも原油価格如何の面があり、最後に残る根っこのインフレ部分は「コアコア」になります。
海外の中銀が見ている「コア」はエネルギーと食料を除いているので、日本のコアコアに近いものです。そのコアコアがまた上昇の勢いを失ってしまったのです。