トルコリラのネガティブ材料は「エルドアン大統領」
トルコリラが急落するなか、トルコのエルドアン大統領は、「金利の罠には落ちない」と、通貨リラの防衛を目的とした利上げに否定的な考えを示している。
さらに、米国がトルコに対して敵対的な対応を取り続ければ「われわれは新たな友人や同盟を探し始めなければならなくなるだろう」と述べ、トランプ政権に対してNATO脱退やロシアや中国への接近を示唆するなど強硬姿勢を見せている。
しかし、こうしたエルドアン大統領による政治的発言は、国民にはアピールできるものかもしれないが、トルコリラにとってはネガティブ材料でしかない。トルコリラが選好されてきたのも、NATOの一角であったからである。
欧州の銀行に広がる経営不安
為替市場で新興国通貨が売られてドルや円が買われるという展開になった背景には、FRBによる利上げが影響していることは確かだろう。しかしそれは、巷で言われているFRBの利上げが招いた「金利差縮小」による資金シフトである可能性は低い。
金融市場に大きな混乱をもたらすのは「金利差」による収益の変動というP/L要因ではなく、負債サイドに影響が及ぶB/S要因である場合が多い。
FRBの持続的利上げによって日本の投資家がドルを調達するコスト(ベーシススプレッド)は、日米の10年国債の利回り格差が3%に満たないなかで2.5%前後まで上昇してきており、「金利差」という観点からはドルの投資魅力は乏しくなって来ている。
「金利差」の面での投資魅力が乏しくなる一方、FRBの持続的利上げ政策を背景としたドル高は、ドル資金を借り入れている主体からみれば、「負債の増加」を意味するものであり、「負債の増加」はB/Sの脆弱化と返済能力の低下を招くものである。
そしてこれは「資産の劣化」を通して、貸手のB/Sを棄損するものとなる。トルコリラの下落によって欧州の銀行に対する不安が高まったのも当然のこと。
新興国通貨は危険に晒されている
新興国通貨の下落基調を招いた要因はFRBの、持続的利上げだけではない。昨年末にトランプ政権が成立させた「レパトリ減税」がドル資金の米国回帰によるドル資金不足を招いており、また先月末に日銀が打ち出した「異次元の金融緩和政策の実質的敗北宣言」による「円キャリートレード」の縮小・巻き戻しも影響していると思われる。
キャリートレードの「調達通貨」の必要条件は、金利が上がらないことと通貨高にならないことである。こうした中、日銀は長期金利の上昇を容認し、実質的にマイナス金利の適用を縮小する動きを見せた。これは、「調達通貨」としての魅力を失わせるものである。
キャリートレードにおける「調達通貨」である円と、資本取引の「調達通貨」のドルの上昇は、資金調達国である新興国に大きな変化を生むのは必然だともいえる。