「2島返還」なら安倍総理の得点になり得る
それでも安倍支持の立場からすがりたいのが、1956年の日ソ共同宣言です。ここでは、日本の立場、利益を考慮して、歯舞群島と色丹島の2島を日本に引き渡すことが明記されています。そして日ソ平和条約締結後に具体的な引き渡しがなされる旨の記載があり、プーチン大統領はこの56年の共同宣言に沿って2島返還を考えると言っていました。
メドベージェフ氏など、ほかの幹部からは反発が見られるものの、プーチン政権の間に、この56年共同宣言に沿った解決を図りたいとの意向が日本にはあり、その前提で行けば、今回、安倍総理、プーチン大統領が平和条約を先行して締結する動きは、「問題先送り」ではなく、2島返還につながる「前進」ということになり、これを評価し、安倍総理のポイントとする見方も一部にはあります。
問題は日米安保の壁
しかし、こうした日本の期待をことごとく潰してきたのが、日米安保条約の壁です。この条約並びに、これを具体化するための「日米地位協定」、「日米合同委員会」の三重構造による米軍支配がネックになって交渉が進められない面があります。つまり、米国は日本のどこにでも米軍を配備することができ、日本は米国のいかなる財産にも捜査権が及ばないことになっています。
従って、例えば色丹島が日本に返還されたとした場合、米国はここにも米軍を配備でき、日本政府はこれを止めることも管理することもできません。そんな条件では、色丹島に米軍基地ができ、それがロシア攻撃の拠点となるリスクがあるまま、ロシアは2島返還もできないことになります。
つまり、北方領土返還には、日米安保体制が大きな壁となってきました。このままでは返還交渉はできません。
トランプ大統領の気分次第
ところが、トランプ大統領の登場によって、この難攻不落と見られた日米安保の壁が崩れる可能性が浮上してきました。在日米軍の立場が流動的になってきたためです。
トランプ大統領は北朝鮮との会談を通じて、朝鮮半島の非核化をうたってきました。これは北朝鮮の非核化だけでなく、「朝鮮半島」の非核化ですから、在韓米軍の引き揚げを意図しています。
この問題、実は前のオバマ政権時にもあり、米国はもはや世界の警察ではありえないと言い、在韓米軍を引き揚げる話は出ていました。しかしオバマ政権ではこれも具体化せず、トランプ政権になって急展開しています。一時はトランプ大統領が在韓米軍の家族を先に引き揚げさせるとのツイートを準備していたところ、これは北朝鮮が米軍による攻撃準備と受け止めるとして、幹部が思いとどまらせたと言います。
そしてトランプ大統領が米朝会談に踏み切ったことで、あらためてこの話が進みました。北朝鮮との交渉で、非核化が進むと展望できれば、在韓米軍の引き揚げが実現する可能性が高まりました。そして問題はこれが日本にも及ぶことです。在韓米軍の次は、在日米軍引き揚げの話に進むと見られています。
それ自体賛否が分かれ、日本にとっては極めて大きな問題です。自民党や官僚の中にも、米軍には日本にとどまってもらい、北朝鮮や中国、ロシアの脅威に備えたいとの根強い考えがあります。
それはともかくとしても、もし米軍がいずれ日本から引き揚げるのであれば、ロシアが北方領土を日本に返還しても、ロシアにとっての軍事的な脅威は排除されます。